放射能と事故のリスク
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/04 22:41 UTC 版)
脱原発派からは、放射能拡散と原子力事故の問題が回避できないことがしばしば指摘される。例えばチェルノブイリや福島で起こった事故では、放射性物質が拡散し、放射能汚染が各地に広まり、たくさんの人間が、放射線で汚染され、明らかに自然放射線から浴びるよりも高い被曝を経験した。長いあいだ被曝した結果、がんになる可能性がある。例えば、2007年、ドイツ連邦放射線防護庁(ドイツ語版)の研究によると、原発から5km圏内で育った子供には、白血病発症の高い頻度が見られることが、統計的に有意性のあるデータで示された。それによると、1980年から2003年のうちに、統計上の平均で17人の子供が白血病にかかると想定されていたのに、ドイツ国内の原発5km圏内に地域では実際には37人の子供が白血病にかかった。現在の放射線生物学では、このことを説明することができず、今日までこの相関の直接的原因は明らかになっていない。原発事故での被曝量が、その後の病気にどの程度影響するのかは、ほとんど見積もられたことがないので、特に一般人の犠牲者数ははっきりしておらず、極めて変わりやすい。チェルノブイリの石棺建設に動員された数十万人の作業員(リクビダートル)の場合でも、正確に立証することは困難である。確定されている死者は62人である。しかしながら、主張されている犠牲者数には極めて大きな開きがある。例えば、IAEAとWHOが、4,000人の死者を前提にしているのに対して、ウクライナ放射線防護委員会は、34,499人の救急隊員が死亡したとしている。核戦争防止国際医師会議(IPPNW)は、5万人から10万人の死者を想定している。 マックス・プランク化学研究所(ドイツ語版)の研究者であるヨハネス・レリフェルト(ドイツ語版)が計算したところでは、10年から20年に一度、全世界に存在している440基(2012年時点)のうちのひとつが炉心溶融を起こすことを想定するべきである。しかもアメリカ合衆国原子力規制委員会(NRC)が1990年に見積った数よりも200回以上多く事故が起こる可能性がある。ドイツの南西部はフランスやベルギーと同様、原発密集地帯なので、1平方メートルにつき4万ベクレルの放射能で汚染されるという世界最大リスクを負う可能性がある。西ヨーロッパで炉心溶融が1度おこった場合、平均で2,800万人の人びとが4万ベクレルの放射能汚染にさらされることになり、南アジアの場合でもおよそ3,400万の人びとがそうなる。 2012年10月にEUは福島原発事故後に実施させたストレステストの結果を公表した。それによると、ヨーロッパの原子力発電所のほとんどに安全上の欠陥があったことが証明された。しかも多くの原発では、1979年のスリーマイル島原子力発電所事故と1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故を受けて合意された安全強化策を全く実施していなかったことが明らかになった。ドイツの12機の原発でも欠陥が見つかった。例えば、充分な地震計測システムがなかったり、かなりの原発が地震に対して脆弱なまま設計されていた。特に悪かったのはフランスの原発であり、同様に北ヨーロッパの原発も批判された。EUの予想では、原発の部品交換には100億から250億ユーロ必要になる。 グリーンピースを始めとする環境団体はこのストレステストを厳しく批判した。例えばグリーンピースは、重大な欠陥の見落としを指摘し、問題のあったベルギー、イギリス、フランスの3カ国にある計12基の原子炉の即時閉鎖が必要だと報告した。彼らによれば、ストレステストの大部分は書類上で行われたので、実際に調査された原発はほとんどなかった。そのことに加えて、テロ攻撃や飛行機墜落の危険性は完全に顧みられておらず、自然災害とそこから発生した事故に対する制御能力が調査されただけであった。
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