捕脚の仕組み
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/31 05:43 UTC 版)
シャコ類の捕脚の射出機構と動作 単楯亜目の現生シャコ類の捕脚(第2顎脚)は、鎌を開きながら射出する刺撃(spearing)と、鎌を閉じたままで射出する打撃(smashing、いわゆる「シャコパンチ」)のいずれかを繰り出せる。刺撃型と打撃型の種類は名の通りそのいずれかを得意とするが、どれも必要に応じて射出方法を入れ替われる。 シャコ類の捕脚の射出は、知られる動物全般の中でも随一の超高速運動(ultrafast movement)で、継続時間は種類により異なるが、遅くも約25ミリ秒(トラフシャコなど)、速いものは3ミリ秒未満(モンハナシャコなど)に及ぶ。これは筋肉の入力のみならず、弾性エネルギーで射出する弓矢のようにばねと止め具、および4棒リンク機構(4-bar linkage)の原理を兼ね備え、第3肢節の筋肉・外骨格・内骨格で精密に構成されたパワー増幅システム(power amplification system)を用いて繰り出したもので、その運動の流れは次の通りに挙げられる。 蓄積:屈曲筋と伸展筋の同時収縮により、屈曲筋の腱にある内骨格(sclerite 2)は第3肢節外骨格内側の隆起と噛み合わせ、止め具として第4肢節の展開を防ぎながら、meral-V は第4肢節に押し込まれて後方に曲がり、その直後の鞍と腹側棒は meral-V の圧迫でしなり、ばねとして弾性エネルギーを蓄える。 射出:腱の内骨格と第3肢節外骨格内側のロックは屈曲筋のリラックスにより解けられ、鞍と腹側棒は圧迫から解放され元の形に復原し、その弾性エネルギーを受けた meral-V は上方が前に突き出す。第4肢節は meral-V の動作により瞬時に展開し、鎌を射出する。 上述の一連の運動の中で、蓄積は刺撃型、射出は打撃型の方が速い(言い換えれば、刺撃型は射出、打撃型は蓄積が遅い)。これはそれぞれの捕食方法への適応(後述参照)と、筋肉の力強い(筋節は長い)ほど収縮が遅い性質によるものである。打撃型の高速な射出を繰り出すばねをしなる伸展筋は、刺撃型のものより強大のため収縮はより遅い。すなわち、シャコ類は捕脚を高速に射出するほど、長い蓄積時間が必要となる。 打撃型の打撃は非常に高速(例えばモンハナシャコの場合は約20メートル毎秒、平均運動継続時間2.7ミリ秒、最大加速度約105メートル毎秒毎秒)のため、強力だけでなく、対象に当った所の水は瞬時の圧力差によりキャビテーションが起こして沸騰し、打撃の直後(約200マイクロ秒後)でそれに匹敵するほどの2回目の衝撃を与えている(例えばモンハナシャコの打撃は400-1500ニュートン、キャビテーションは約500ニュートン)。知られる限り、刺撃型の射出はこのような現象を起こらない。 この射出運動、特に打撃型のものはリアルタイムでコントロールできない(運動神経伝導速度が追いつけない)ほど高速で、自身の捕脚にダメージを与える危険性も伴うほど強力なものだが、運動神経系の活動記録によると、打撃型は射出前の蓄積段階で伸展筋の収縮を調節し、事前に射出速度を変えることが知られている。これにより、打撃型は状況に応じて射出速度/打撃力を中枢神経系で先行予測(feed-foward)的に調節し、打撃がもたらすダメージコストを減らせることが示される。刺撃型の小型種も、射出速度が獲物との距離に応じて変わることが知られ、前述のような事前調節を行ったことが示唆される。
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