捕脚
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/31 05:43 UTC 版)
刺撃型の Squilla mantis。捕脚最終肢節が発達した棘をもつ。 打撃型のモンハナシャコ。捕脚最終肢節が棍棒状に膨らむ。 シャコ類の代表的な特徴である捕脚(ほきゃく、raptorial claw, raptorial appendage, raptorial limb)は採餌用に特化した顎脚で、シャコ類の英名「mantis shrimp」に現れるように、カマキリの鎌(前脚)を逆さまにしたような造形をもつ。単楯亜目の現生種の場合は一般に第2顎脚のみ捕脚と呼ばれているが、基盤的な絶滅群(古口脚亜目・昔口脚亜目・Sculdidae科)まで範囲を広げると、分化程度(後述)により第3-5顎脚をも含め、第2-5顎脚を「第1-4捕脚」と呼ぶ。 Sculdidae科以外の単楯亜目(狭義の単楯亜目)では第2顎脚(第1捕脚)のみ飛び抜けて強大な捕脚(ballistic claw, ballistic thoracopod)で、最終肢節(鎌の刃)の外骨格の強化が進み、第3肢節は肥大化して大きな伸展筋(第4肢節を展開する筋肉)を格納される。第3肢節の前半部は所々に外骨格の硬化程度が異なり、鎌を射出する際に第4肢節(鎌の付け根)の展開速度を増幅する精密な機構をなしている。第4肢節の基部に関節した第3肢節前方側面は、Vの字型に分かれた硬い「meral-V」で、腹面を軸にして前後わずかに動ける。Meral-V の直後は、2つの特化した外骨格がそれぞれ上下にあり、背面は鞍(saddle, meral saddle)という、名の通り鞍ないしポテトチップスに似た形(双曲放物面)の構造体、腹面は腹側棒(ventral bar)という、 meral-V の付け根に連続し、全長が内側に折り返した長大な構造体である。この2つの外骨格は弾性エネルギーを蓄え、あわせて第4肢節の展開速度を増幅するばね(spring)となる。第3肢節内部の腹面に格納され、第4肢節を折り畳む屈曲筋の腱(flexor apodeme)には硬化した2枚の内骨格(sclerite 1, sclerite 2)があり、これは第3肢節外骨格内側の隆起と噛み合わせ、弾性エネルギーを蓄える際に第4肢節の固定と解放を操る止め具(latch)となる(これらの構造の動作の仕組みはシャコ目#捕脚の仕組みを参照のこと)。また、一部の種類は鞍に目立った眼状紋をもち、これは「meral spot」と呼ばれている。 単楯亜目以外の基盤的な絶滅群では、昔口脚亜目の Tyrannophontes gigantion のみ上述の構造(少なくとも鞍のみ)をもつことが知られている。 多くの場合、現生シャコ類は捕脚が得意とする捕食様式に応じて、おおまかに刺撃型(スピアラー、spearer)と打撃型(スマッシャー、smasher)の2タイプに分けられる。刺撃型は活動的かつ柔らかい獲物を捕獲するのに適したタイプで、捕脚の第5肢節(最終肢節と嚙み合う部分)は更に肥大化して、最終肢節は左右に平たく内側に発達した棘(歯)が突出し、一部の種類は棘の縁に微小な逆棘が並んでいることも知られている。打撃型は硬い殻をもつ獲物を叩き割るのに適したタイプで、第3肢節(鎌状部分を射出する部分)の方が更に肥大化して、最終肢節基部の外側が肥厚な指節腫(dactyl heel, dactyl club)として棍棒状に膨らんでいる。一方、ハリツメシャコ科は前述のどのタイプにも当てはまらい中間型(intermediate、非分化 undifferentiated とも)で、捕脚は両者の中間的で単調な形をした(第3肢節は打撃型ほど肥大でなく、最終肢節は内側の棘も棍棒状の膨らみもない)。 残りの第3-5顎脚(第2-4捕脚)は、単楯亜目の現生種ではどれも明らかに第1捕脚より小さく、数多くの剛毛が内側に並んで、第1-3肢節は後方ほど短くなるが、残りの鎌の部分(第4-6肢節)、特に第3-4顎脚ではほぼ同形である。なお、基盤的な絶滅群(古口脚亜目・昔口脚亜目・基盤的な単楯亜目)とトラフシャコ上科の antizoea 型幼生では第2と第3-5顎脚の分化がそれほど極端でなく、全てが同じ程度に発達(古口脚亜目・昔口脚亜目の一部・antizoea 型幼生)、もしくは後方に向けて次第徐々に小さくなる(昔口脚亜目の大部分・基盤的な単楯亜目)。
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