抑圧搬送波単側波帯
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/31 03:55 UTC 版)
抑圧搬送波単側波帯(SSB、英語: single sideband)とは情報を片側の側波帯のみで伝送するもの。短波の業務無線やアマチュア無線などで利用される。搬送波よりも上の周波数の側波帯をUSB (Upper Side Band)、下を使うものをLSB (Lower Side Band) という。アマチュア無線を除いては、原則としてUSBを使用する。アマチュア無線局では、7MHz帯以下ではLSB、10MHz帯以上ではUSBを使う慣習になっている。取り違えても法令違反ではないが交信相手がいない。 変調には二重平衡変調器等が用いられる。これは、周波数変換器に使われる回路と同じである。二重平衡変調器には、入力用のポートが2つあり、出力用のポートが1つある。入力用のポート1に搬送波を、ポート2に音声信号を入力すると、出力用のポートから、抑圧搬送波両側波帯 (DSB-SC) で変調された信号が出力される。これは搬送波を含まず、LSBおよびUSBの両側波帯のみが含まれた信号である。これを、クリスタル・フィルタ等の急峻な特性を持つフィルタに入力し、USBまたはLSBの希望の側波帯を得ると、SSBで変調された信号が得られる。これを希望の出力まで増幅すれば SSB送信機ができる。また、クリスタルフィルタを必要としないPSN (Phase Shift Network) 変調方式がある。近年ではPSN変調方式を、マイクロコンピュータのソフトウェアによりアナログ信号をデジタル信号処理する数値演算変調方式が使われている。 SSBは、搬送波増幅の電力を使用としないため、AMより省電力でエネルギー効率が良い。また、同じ距離までの通信であればはるかに少ない電力の送信機で済み、また選択性フェージングの影響を受けにくく、同時に占有周波数帯域が狭くて済む。なお、側波帯だけに着目すれば、AMもSSBも同じものであるため、隣接大出力局の混信を避けるために、SSB受信機で混信がないほうの側波帯だけを受信し、AMの混信を避けることが可能であり、AM放送の受信テクニックとして使われている。 一方、SSBの音声通信は搬送波(キャリア)が無いために、受信機での周波数同調操作がやや難しくなる。また、良好な音調を得るためには受信周波数を数10Hzの単位で微妙な同調を調整しなければならない。SSBは受信周波数の同調点がずれると、音楽を受信する時などに顕著に音調がおかしいように聞こえる。これは送信されたSSB電波に受信機の同調がずれていると復調音の周波数がずれるために起こる。受信周波数を正確に合わせる操作をゼロインと呼ぶ。 SSBでは、占有周波数帯域が狭いという利点を生かすため、伝送帯域を狭く設定している。 数MHzの中間周波数において、数100Hz離れた側波帯の片側だけを消去するような特性が非常にシビアなフィルタ回路が要求されるため、振幅や位相などについて良好な特性を持つフィルタ回路を作ることが困難である。 抑圧搬送波には搬送波の情報が含まれていないので、送信信号と等しいスペクトルを持つ受信信号を得ることは困難である。最終的には、原音と同じ音質になるよう、人間の聴感で周波数を合わせることになる。 SSB受信時の受信信号強度の変化を補正するにはAGC(自動利得制御)を使うが、搬送波が無いためAGCの基準になるものは、例えば音声通信の場合は、音声のエンベロープを基準にAGCが動作する。そのため、大きな声も小さな声も同じ大きさの声になるほか、無音時は受信ゲインが最大となり、耳障りな雑音が出力される。 変調に使う搬送波と復調に使う搬送波が異なるため、搬送波のC/Nが悪いと(残留FM成分が多いと)瞬時的に搬送周波数が変動することとなり、復調音声の品質が損なわれる。 SSBは、FMのようにチャネルで区切って隣接チャネルとの間に十分なガードバンドを設けて使うということをしないため、隣接した周波数で行われる通信が雑音となって可聴周波数に落ち込んできて、耳障りとなる。
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