変種と地域個体群
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/08 14:57 UTC 版)
ウチョウランには地域変異が多いが、その中でも形態的な特徴の目立つ3つの個体群が変種として記載されている。 クロカミラン (黒髪蘭、var. kurokamiana)佐賀県の黒髪山産の地域個体群。黒髪山(標高518m)と、その連山の、青螺山(標高599m)周辺部の、近づくことも容易でない岩場の下100m附近から、中腹300m附近に、そそり立つ絶壁の岩肌に、イワヒバ、スゲ等と、混生生育する。クロカミランは、ウチョウランの仲間では、最も自生数量の少ない、この地固有の野生ランである。ウチョウランに比較して花茎が細く、草丈は5~20cm、平均では15cm前後となる。葉は、2枚~3枚、腰高に着き、すっきりした草姿である。葉幅は狭く、樋状で、背にそり湾曲する。葉裏の紫斑線は余り強く現れず、紫斑線のない個体も少なくない。稀に紫斑線の強く現れるものがあり、これらは鮮やかな紫紅花をつけてくれる。花は、唇弁は平均して豊かで、広幅舌のものが多く三裂相接し、正中線を中心に強く湾曲する個体が多い。特徴ある紫斑や紫点が鮮やかにしかも華麗な紋様を描き、すっきりした腰高の草姿と調和する。側萼片は長短があり、平肩咲きとなる。兜の部分は小さい。距は細く径1mm、直線的で長さも2~3mmと短い。そのため、例え20花以上の多花となってもうるさくなく、佳品と言われる一因である。 サツマチドリ(薩摩千鳥、var. micrpunctata)鹿児島県の下甑島産の地域個体群。年平均気温17~18℃、年降水量2500mm、冬期でも霜の降りることはない下甑島の断崖の岩隙にスゲなどと混生する。この種は昭和55年に新種として発表されたもので、ウチョウランの仲間としては新しいものである。花期はウチョウランの仲間では最も遅咲きで6月下旬~8月上旬。花序は草丈の4分の1位で、花は茎頃に密集し、15~30数花をつける。側萼片の先端は小さく、唇弁の横幅より短く8mm位、横一文字に平開する。距は細く径1.2mm、長さ6~8mm、子房より短い。唇弁上部は肩が張り、全体に円弁となるものが多い。最も特徴的なのは、唇弁の斑紋であり、数多くて細く、星群状に散るミクロの斑紋が見所でもある。 野生種としては耐暑性があり、栄養繁殖率も良い。育て易い園芸交配群の作出に利用された。 アワチドリ(安房千鳥、var. suzukiana)千葉県南部の低山に分布。花は基本種より小さいが着花数が多い。距は細く小さい。栄養繁殖しにくい。 この他の地域個体群は学術的にはすべてウチョウランだが、産地識別を目的とした通称名が使用されることも多い。通称名としてはクロシオチドリ(長崎県平戸島)、ショウドシマウチョウラン(香川県小豆島)、テバコチドリ(愛媛県手箱山)、サヌキチドリ(香川県)、ミマサカチドリ(岡山県)、オオウチョウラン(愛媛県石鎚山系)、ガンコラン(千葉県)など多数ある。 これらはすべて相互に自由に交配でき、交雑個体は雑種強勢によって栽培しやすくなる傾向がある。交雑個体も稔性があるため園芸品種では複雑な変種・個体群間交配が次々とおこなわれ、すでにどのような系統が起源なのか明らかでない場合が多い。 非交雑の純粋な野生系統は一般に栽培・増殖が難しいため、産地で郷土の花として維持・繁殖が試みられている場合を除いて、積極的に生産されている例は稀である。純粋な野生種が一般園芸店に流通することはほとんどなく、変種名で販売されている個体でも交雑種と思われるものが多い。園芸ラベルに記載されている種名は安易に信用してはならない。
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