報道における匿名
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/10 04:13 UTC 版)
報道においては、たとえば「情報発信源を明らかにしない」という約束で、記者が実力者・役職者らから談話をもらうことがある(詳細はオフレコを参照)。 事件・事故報道では、被害者となった人物の氏名が明かされることにより、暴力的・攻撃的な取材(メディア・スクラム)がおこなわれ、また、名が世間に広まることによって、従来の静謐な生存環境が破壊されるという現象が、広範に発生している。これらを、二次被害という。とくに、子供など何らの反論手段を持たない社会的弱者にとって、二次被害によって受ける心理的な傷は甚大なものである。二次被害を防止するため、捜査当局が報道側に対して被害者の個人情報を漏洩することを禁止すべきだ、という論議が近年、急速に高まっている。 加害者に目を移すと、被疑者・加害者少年の匿名報道が少年法61条で義務付けられている少年犯罪など一部を除けば、日本では実名報道がほとんどである。マスメディアの多くは、被疑者が警察などの公権力から人権侵害を受けるのを防ぐために、実名報道は必要だと主張している。 これらの主張に対しては、実名報道はプライバシーを侵害することがあり、被害者やその家族を苦しめるだけでなく、仮にそれが冤罪であることが分かった場合には、被疑者に取り返しのつかないダメージを与える・また刑に服した後の元犯罪者の更生の機会を奪っている、という批判がある。 逆に警察などの公権力に対しては、被疑者に対し匿名性を高くして報道する傾向がある。「*県警の調べで分かった」、「*日までに逮捕した」という言い回しが代表的であるが、これでは「県警」の「誰」からの情報なのか・いつ発生した事なのかは分からず、マスメディアが権力チェック機構となり得ていない、との批判がある。また、公権力からの情報操作に見舞われやすいとの指摘もある。新聞社は、警察から情報を得るために警察官個人が特定される表現を避ける傾向があり、ある新聞社が広報担当者である副署長を「副署長によると」との表記にしたところ、それでさえ「話さない」と言い出し、記述の変化でも警察の現場では拒否反応が強いという。 スウェーデンでは、事件報道において一般市民は原則匿名で、政治家・上級公務員・警察幹部・大企業経営者・労働組合幹部[要出典]など社会的に大きな影響力のある「公人」が事件に関与したとされる場合に限って、実名で報道される。スウェーデン以外の国でも、たとえば、「**警察の*警部が話したところによると」と発表した者の実名・階級・役職を詳細に報道することが多い。 上智大学教授の田島泰彦は、基本的に、記事の正確性、信頼性、透明性の観点から、情報の出所の明示が最も大事な原則であり、とりわけ、公権力を行使する政治家や官僚が情報源である場合、明示は当然であり、取材源秘匿は、取材源の生命にかかわる・重大な不利益になるといった場合の例外とすべきであると主張している。
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