原理と実験技術の概要
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/19 00:28 UTC 版)
「ボース=アインシュタイン凝縮」の記事における「原理と実験技術の概要」の解説
原子はスピン1/2の中性子、スピン1/2の陽子、スピン1/2の電子からなる複合粒子である。原子のスピンは中性子数と陽子数を足した核子数 A と電子数 Z の総和から (Z + A)/2 で与えられる。Z + A が偶数であれば、原子のスピンは整数値をとり、ボース粒子となる。例えば、中性アルカリ原子において、電子数 Z は奇数であり、核子数 A が奇数の同位体がボース粒子である。このボース原子から成る中性原子気体をマイクロK以下の極低温に冷却するとボース=アインシュタイン凝縮 (BEC) し、ボース原子は、1つの最低エネルギー状態を占有するようになる。 こうした極低温では、原子と容器の壁との接触や原子間の3体衝突の過程により、気体は液体や固体の相に相転移してしまう。従って、BECは最終的に化学平衡状態である液体や固体の相に相転移する準安定状態である。液体や固体への相転移が生じる前にBECを実現するためには、気体原子の液体や固体への凝集を抑制する必要がある。気体原子と容器の接触と避けるために、気体原子は真空中に捕獲される。一方、3つの原子が衝突する3体衝突では、束縛エネルギーが放出され、分子やクラスター状態が形成され、凝集が生じる。3体衝突の発生率は原子数密度の2乗に比例するため、その抑制に希薄な気体を用いる必要がある。典型的なBECの実験では、密度は1014 cm−3から1015 cm−3であり、BEC発生の温度は500 nKから2 µKである。 中性原子気体の実験では、一般にレーザー冷却による予備冷却、磁気光学トラップ(英語版)による捕獲、蒸発冷却(英語版)の過程を経て、BECが実現される。アルカリ金属原子は常温、常圧では固体状態であるため、加熱して気体状態にして原子線で実験装置内に送られる。レーザー冷却では、気体原子の共鳴周波数よりわずかに低い周波数のレーザーをx軸、y軸、z軸の正負の両方向から照射する。このとき、気体原子は輻射圧により、減速される。レーザー冷却では気体原子にとって、レーザーはあたかも粘性をもった糖蜜のように振る舞うので、光糖蜜状態(英語版)と呼ばれる。レーザー冷却された気体原子は、円偏光レーザーと4重極磁場で構成される磁気光学トラップに捕獲される。一定の条件が満たされる原子については、磁気光学トラップ中で偏光勾配冷却が働き、さらに冷却される。冷却の最終段階では、磁気トラップ中で運動エネルギーの大きい原子を選択的に蒸発させる蒸発冷却により、BECが起きる転移温度以下に到達する。 1995年、コロラド大学のエリック・コーネル、カール・ワイマンらは、ルビジウム87原子 (87Rb) を冷却することで初めてBECを実現し、同年マサチューセッツ工科大学のヴォルフガング・ケターレらは、ナトリウム23原子 (23Na) でBECを実現した。この成果により、コーネル、ワイマン、ケターレの3名は2001年度ノーベル物理学賞を受賞した。現在では、1H、7Li、23Na、39K、41K、52Cr、85Rb、87Rb、133Cs、170Yb、174Yb、4HeでBECが実現されている。
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