再生医療と万能細胞
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2015/03/10 12:33 UTC 版)
ヒトを含めた哺乳類においては、原則として受精卵以外に万能細胞は存在しないが、この受精卵を人工的に培養開発させた万能細胞で、人類が最初に手にしたのはES細胞である。1981年にイギリスでマウスのES細胞が作られ、万能細胞の代名詞のように呼ばれた。培養したES細胞を正常な胚盤胞の中に注入させ、胚と細胞が混ざり合ったものを、仮親の子宮に入れると正常な胎仔を作ることができるが、この仔マウスは全身にES細胞と同じ遺伝子を持ち、正常な孫マウスを産むこともできる。このような異個体の細胞を持つマウスはキメラマウスと呼ばれている。胚の中であらゆる器官に分化できるES細胞は、子宮の中の条件に近い環境を整えさえすれば試験管内で様々な器官へと分化できる可能性を含み、人工臓器を作って移植に利用することが可能となる。1998年にはアメリカでヒトES細胞の作製が達成され、ヒトES細胞を、欲しい器官や臓器に任意に誘導分化させる条件への応用研究が進められた。 しかし、受精卵を壊すプロセスが倫理面・宗教面で問題とされ、2001年には、アメリカで公的研究費によって新たなヒトES細胞作製を作成することが禁止された。研究反対・推進が紛糾する中、バイオテクノロジー先端企業の集まるカリフォルニア州、イリノイ州、メリーランド州などは政府の方針に反し、州予算をES細胞の研究費に当て、2006年にはハーバード大学でも民間からの寄付金で、ヒトのクローン胚を使ったES細胞を作り出す研究を行なっていた。ヒトのクローン胚は、体細胞から核を取り出し、あらかじめ核を除いた卵子に移植して作られる。患者の核を移植したクローン胚を培養し、そこからES細胞を作れば、患者と同じ遺伝情報を持つES細胞が手に入り、拒絶反応が起きない移植用の細胞や組織を作り出せる可能性がある。だがクローン技術は、ヒトのクローン胚をそのまま子宮に戻せば、クローン人間が生れる可能性があるため、倫理的な観点からクローン胚の作製そのものまで禁じている国(フランス、ドイツ、カナダ)もある。このクローン胚からES細胞を作る技術は、まだどこの国でも成功していないが、クローンと万能細胞の組み合わせは様々な治療に応用できると考えられ、世界で注目されている技術の一つだとされている。 アメリカはオバマ政権に変わり、2009年にES細胞研究への連邦予算助成を解禁した。2010年10月、アメリカのジェロン社が脊髄損傷の患者4人に対しES細胞を使用した臨床試験を開始したが、高コストなどを理由に2011年11月に撤退を発表した。ES細胞の研究費への連邦予算助成が解禁されたものの、政策差し止めを求める反対団体との法廷闘争や論争は依然続いている。 詳細は「胚性幹細胞」を参照 2013年にはiPS細胞を使った世界初の臨床研究として加齢黄斑変性を治療する研究が始まった。iPS細胞は、ES細胞の生命倫理的な問題(受精卵を壊すこと)の壁をクリアし、また、患者の細胞からあらゆる細胞や組織に分化させることができるため、それを正常な細胞と比較することにより、病気の原因の究明やメカニズムの解明の面でも有効な技術だとされ、効率的な治療薬の開発にも期待されている。 詳細は「人工多能性幹細胞」を参照
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