共謀の定義の問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/11 23:44 UTC 版)
共謀罪における共謀とは具体的には何か、ということも論点となっている。政府見解は、共謀罪における共謀と共謀共同正犯における共謀が同じものであるとする。それを前提として、既遂の犯罪における共謀共同正犯の認定と同様に実行行為の伴わない共謀を認定することがはたして妥当か、という議論でもある。 反対派の意見 共謀共同正犯については謀議が存在すらしない場合にも成立するとされるように拡大解釈がすすみ、共謀の概念が広がりすぎている。わいせつ画像の投稿が行われた画像掲示板の管理者が通りすがりの投稿者との具体的なやりとりがないにもかかわらずわいせつ物公然陳列の共謀共同正犯であるとして有罪とされた下級審判例が存在し、また2003年の最高裁判例において暴力団組長について、武装護衛の組員の銃刀法違反に関して目配せすらないのに黙示の共謀が認められ共謀共同正犯が成立したとされる最高裁判例が存在する。共謀罪においてもこうした共謀概念の拡大はそのまま踏襲されることとなり、国会審議においても、目配せやまばたきが共謀となるとの政府答弁があった。このため、嘘の供述をもとに作られたストーリーで冤罪が起きる危険があり、それは犯罪行為が行われていない前提の共謀罪ではより深刻なものとなる。 賛成派の意見 共謀罪の基礎には昭和三十年代の暴力団紛争において(後に、映画化され極道映画ブームの元になった一連の抗争事件)、犯罪実行に自ら加わらない暴力団の組長など「黒幕」処罰を目的として確立された共謀共同正犯という判例理論があり、当時、学会から、拡大処罰の可能性がある、連座制の復活だ、近代刑法の基本原則たる個人責任を没却する、との批判があったが、半世紀後の今日にわたるまで、そのほとんどが暴力団にのみ適用されてきている。今日、共謀罪反対派の反対論は、当時の批判に類似している。反対派のいう黙示の共謀の判例については、もともと、組員を支配して手足のように使いながら犯罪の実行には自ら加わらない組長を逮捕する法理として共謀共同正犯が発展してきた事を思えば、不当な拡大解釈とはいえない。それに、暴力団における、組長と組員の強固な事実上の支配関係を前提とした法理である事から、一般人への拡大は半世紀ほとんど行われていない。 公明党は対象となる犯罪の遂行を2人以上で具体的・現実的に計画することが必要で「居酒屋で上司を殴ってやろうと言っただけで犯罪になる」などの批判は的外れであり、「組織的犯罪集団」「計画」「準備行為」の3つを構成要件としており、重大犯罪を実行するための団体による計画の合意と計画した犯罪の準備行為の実施を構成要件にしたと主張している。 その他の意見 公共政策調査会研究センター長の板橋功はテロ組織はアルカイダの麻薬売買や「イスラム国」(IS)の石油密売などで得た利益を資金源にしてテロ活動や犯罪を行っていることから、パレルモ条約の加盟に必要な共謀罪や参加罪を新設することには賛成だと述べている。警察・司法の制度や共謀罪の構成要件がそれと全く違っていることから「治安維持法の再来」という批判は不適当と述べている一方、「乱用」の危険性があるというならば成立させるために更なる歯止めをかけても良いと述べている。
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