他の絵画作品からの影響と関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/07 03:50 UTC 版)
「ディアナとニンフたち」の記事における「他の絵画作品からの影響と関係」の解説
研究者アーサー・ウィーロックは、『ディナナとニンフたち』に影響を与えるような「先例となった作品は存在しない」としている。ディアナを絵画作品に表現する場合、アクタイオンがディアナとニンフの水浴を覗いてしまったエピソードか、ディアナと沐浴中にニンフのカリストがゼウスの子を身篭っていることが発覚するエピソードが、17世紀初頭のマニエリスム期にはよく描かれていた。『ディアナとニンフたち』は、これらの場面とはまったく異なるディアナを描いているという点でも注目に値する。またフェルメールは、これらのエピソードから伺えるディアナの短気で辛らつな気質表現しようとしておらず、狩猟の女神としてのディアナを象徴する獲物や弓矢も描かれていない。他の絵画作品では俊敏な猟犬として描かれる犬でさえ、大人しい動物として表現されている。 『ディアナとニンフたち』では、ディアナを何らかの象徴、寓意を含む人物像としては描いていない。17世紀までの伝統的な絵画作品では、ディアナは純潔を象徴するシンボルとともに、女神を描いていることが明確に判断できるように表現されるのが普通だった。このような表現でディアナを描いた同時代の絵画として、ヤコブ・ヴァン・ロー (en:Jacob van Loo) が1650年ごろにアムステルダムで描いた『ディアナとニンフ』があげられる。この絵画はフェルメールの『ディアナとニンフたち』の6年前に描かれた作品である。この、フェルメールのディアナとヴァン・ローのディアナは比較されることが多い。ヴァン・ローの『ディアナとニンフ』にも、お供のニンフを連れたディアナが森のはずれで身を清めている場面が描かれているが、フェルメールの『ディアナとニンフたち』とはその雰囲気が著しく異なっている。 フェルメールとレンブラントの作風はよく似ているといわれることがある。『ディアナとニンフたち』も、1876年に開催されたオークションにはレンブラントの弟子ニコラース・マースの作品として出品された。これは、画面左下のアザミと犬の間の岩肌に記されているフェルメールの署名「Meer」が、マース「Maes」に見えるように偽造されていたことにも一因がある。後世の修復によってオリジナルの署名「J. v. Meer」が辛うじて判別できるようになったが、この署名はユトレヒトの芸術家ヨハネス・ファン・デル・メート (Johannes van der Meet) だとして、『ディアナとニンフたち』をこの芸術家の作品と見なすものもいた。 フェルメールは他の画家の作品から、構想、技法、人物のポーズなどを、自身の作品に取り入れていることが知られている。この作品のディアナにもレンブラントの作品からの効果描画や技法の影響が見られる。『ディアナとニンフたち』のディアナの豊満な肉体表現はレンブラントが描いた人物像とよく似ており、ディアナの衣服のしわの表現にはレンブラントが多用したインパスト (en:Impasto) と呼ばれる厚塗りの技法が使われている。さらに、レンブラントと同じくフェルメールもこの作品で人物の表情に陰を多用しており、このことが作品に意味ありげで厳粛な印象を与えている。作品が持つ雰囲気という点において、レンブラントが1654年に描いた『ダビデ王の手紙を手にしたバテシバの水浴』が非常によく似ている。フェルメールはこの『ダビデ王の手紙を手にしたバテシバの水浴』を直接目にしていた可能性が高い。それぞれの作品に描かれたディアナとバテシバ、足を洗うニンフと侍女のポーズはよく似ている。レンブラントの弟子だったカレル・ファブリティウスが、1650年から死去する1654年までデルフトに住んでいたことが、フェルメールとレンブラントの接点となった可能性もある。 『ディアナとニンフたち』の作者は1901年になるまで特定されていなかった。しかしながら美術史家でマウリッツハイス美術館の館長アブラハム・ブレディウスと副館長ウィレム・マルティンが、フェルメールの署名入り『マリアとマルタの家のキリスト』と『ディアナとニンフたち』との色使いや技法の類似、さらに『取り持ち女』との顔料の共通性から、『ディアナとニンフたち』はフェルメールの真作であると結論付けた。『マリアとマルタの家のキリスト』、『取り持ち女』ともに『ディアナとニンフたち』と同じくフェルメール最初期の作品である。
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