他の政治的解釈
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/30 09:40 UTC 版)
この作品は児童文学であると同時に、19世紀末のアメリカ経済に関する寓話とも解釈されることがあり、歴史学者、経済学者や文学者等が政治的解釈を述べている。ただし、読者および批評家の多くは物語をそのまま楽しんできている。ボームは1890年代に政治的に活動はしたものの、本作品の政治的解釈については、否定も肯定もしていない。 経済学者のグレゴリー・マンキューは、マクロ経済学の教科書で『オズの魔法使い』は銀貨鋳造論争を背景にして書かれた童話だと記している。 1880年から1886年にかけて、アメリカ経済は23%ものデフレーションを経験した。 当時の西部の農民達のほとんどが、東部の銀行からの借金で開拓を行っていたが、デフレーションの発生は借金の実質的価値を増大させ、西部の農民は苦しみ、東部の銀行が何もせずに潤うという事態が発生した。当時の人民主義派はこの問題について、不足する貨幣供給量を銀貨の自由鋳造で賄うことで解決するべきだと主張した(リフレーション政策)。 銀と金、金本位体制を巡っての論争は、1896年の大統領選挙で最も重要な論点となった。民主党は銀貨の採用を主張し、共和党はあくまでも金本位制にとどまることを主張した。 経済史家ヒュー・ロッコフ(Hugh Rockoff)の記述では、 ドロシー:アメリカの伝統的価値観 トト:禁酒党(Teetotalers) かかし:農民 ブリキの木こり:工場労働者 マンチキン:東部市民 臆病なライオン:1896年民主党大統領候補ウィリアム・ジェニングス・ブライアン 東の悪い魔女:第24代大統領グローヴァー・クリーヴランド 西の悪い魔女:第25代大統領ウィリアム・マッキンリー 魔法使い:共和党議長マーク・ハナ オズ:金の単位オンスの略号(OZ) 黄色いレンガ道:金本位体制 ドロシーは最後に、家に帰る道を見つけるが、黄色いレンガ道をたどるだけでは見つからなかった。ドロシーは魔法使いオズが役に立たない代わりに、自分の『銀の靴』に魔力があることを知る。 結局、民主党は大統領選挙に敗れ、金本位制は維持されることになったが、1898年にアラスカのクロンダイク川で金が発見され、また、カナダや南アフリカの金の採掘量も増え、結果的に貨幣供給量は増大し、デフレは解消されてインフレ傾向となり、農民は借金を容易に返せるようになった。 としている。 もっとも、ボームに関する伝記作家や研究者は、そうした政治的解釈には否定的である。この作品の出来た背景についての詳細がボーム自身の日記に残されている上、ボームは時に政治的ではあっても、そうした比喩による現代風刺には無関心だったからである。時に皮肉と解釈されることもあるが、本作の序文でも「ただ今日の子供を喜ばせる為に書いた」と明言している。もっとも、高い知名度ゆえに、ドロシーたちは新聞の風刺漫画のネタに度々使われていた。 先のヒュー・ロッコフの説については、ボームがその政治活動ではシルバリズム(silverism)に反対するメンバーの一員であり、アメリカ経済に関して共和党の考えに賛同していたという反論が、歴史家デビッド・B・パーカーになされている。ちなみに黄色いレンガの道に関しては、由来となった建物がボームの別荘があるミシガン州内の公園に実在する。 なお、原作は銀だった靴は、映画版では視覚的効果を狙ってルビーの靴に置き換えられている。
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