人種概念否定の潮流
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/10 13:38 UTC 版)
現代において人種という概念は科学的に否定され有効ではないとされる考えが広まってきており、人類学者や社会学者の中には人種は社会的要因によって構築された制度であり、実在しないと提唱する者も多くいる。例えば、フランツ・ボアズは米国へやってきた移民とその子どもの頭蓋を研究して、環境の影響を強調し、「人種」という概念を「文化」に置き換えるべきだと早い時期から主張していた。 白人などの人種概念はその成立過程において多分に偏見や、宗教をはじめとする文化的な判断要素を含んでおり、民族と似た社会科学的な部分を持つとする論者は多い。 「人間は生物学的、遺伝子的に細かく見ていけば差異はあり、また個人の特徴は多様である、しかし、人の生物学的差異、遺伝子の差異は人種として人を分けるほどの大きなものではなく、現代人は単一の種である。人に科学的な差異があったとしても、人種の概念は歴史が作り出したものであり、生物学的、遺伝子的な小さな差異をもって人種として分ける行為は人種差別的な行為でもある」というのが現在の潮流である。 一方で人種概念が社会構築物であるという見解に懐疑的な意見もあり、事実に対する言明は社会運動(たとえ差別追放など動機は妥当だとしても)に基づいてはならないという批判がある。遺伝関係が不明瞭なことから、遺伝学志向の強い人類学者は人種という概念を認めない潮流にあるが、現実に身体的特徴の類似性を持つ人類集団が地域的に分布することを無視することはできない、との見解もある。むしろ、近年の分子人類学が示すミトコンドリアDNAハプログループ、Y染色体ハプログループといった遺伝子指標の拡散経路は、従来の形質人類学が示した人種区分と概ね一致しているが、最近の人類学者は、政治的な曲解を恐れて、人種そのものに触れることを避ける傾向がある。医学においては人種として分類しないことが、逆にマイノリティの抹殺や無視につながるとする意見もある。 人種の概念に対する声明などユネスコは1951年「人種の本質と人種の違いに関する声明」を作成し、両声明において人種の生物学的差異は存在しないと断言し、人種とは「社会的神話」であると強調した。 アメリカでは、1996年にアメリカ自然人類学会(AAPA)が19世紀から20世紀初頭にかけて作られてきた生物学的な「人種」概念の無効性を一般に周知するための声明を出した。1998年5月17日アメリカ人類学会(AAA)の理事会によって「『人種』についてのアメリカ人類学会声明」がだされ、今世紀の科学的知識の進歩により、人の集団は生物学的に明確に区別ですることのできる集団ではないことが明らかになったとした。 日本では1995年日本学術会議の下に、「人種・民族」概念検討小委員会が設置され、2001年に「人種」概念が科学的ではないと確認したと最終報告された。
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