二十面相は複数人いるのか?
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 05:24 UTC 版)
「怪人二十面相」の記事における「二十面相は複数人いるのか?」の解説
前述のように、二十面相は、死んだように見せかける事で何度も逃亡をしている。しかし『鉄塔の怪人』(ポプラ社版『鉄塔王国の恐怖』)では、二十面相は明智や警官隊の前で、「数十メートルある」という鉄塔の天辺から身を投げており、およそ生き残って逃亡を図れるような状況ではない。 本文描写としては、二十面相が「矢のようにおちていきました」として「これが怪人二十面相の、あわれなさいごだったのです」と結ばれているだけで、実際に二十面相が地上に激突したり死亡したというような描写はない。また、原作者江戸川乱歩はこの点について、以後の作品でとくに何の説明も残していない。 この描写の説明として、後年推理作家綾辻行人は、「『鉄塔の怪人』で二十面相は死んでしまい、その後の物語に出てくる二十面相は別の人物による2代目なのではないか」と考えた。『生誕百年・探偵小説の大御所 江戸川乱歩99の謎』(二見書房刊)は、これに対して「『鉄塔の怪人』で死んだ二十面相は替え玉だ」という説をとっている。 また『妖人ゴング』(=ポプラ社版魔人ゴング)で二十面相の化けた「ゴング」は野蛮人として描かれており、小林少年を死ぬかも知れない状況に陥れた。これは殺人が嫌いなはずの二十面相像とはそぐわないため、光文社版の注釈などでは『妖人ゴング』の二十面相は普段の二十面相とは別人ではないかと指摘している。ただ、野蛮人である「ゴング」の正体を暴かれた後の態度や言動は、いつもの二十面相のものだった。『魔法人形』では赤堀老人(と小林少年)を屋敷ごと焼き殺そうとしている。 綾辻の説以降、二十面相が複数人いるのではないかという説が幾つか生まれた。最も有名なのは北村想による説である。北村は戦前の作と戦後の作の矛盾撞着に目をつけた。戦前・戦後に書かれた物語は、それぞれ舞台が明らかに戦前・戦後のものであるにもかかわらず、登場人物は誰一人として年を取っていない。また登場当初には盗品美術館を作る事が一番の目的だったが、戦後の作品では、奇怪なぬいぐるみを着ては世間と少年探偵団を驚かす愉快犯的行動が多くなる。これらの矛盾を解消する説として、北村は戦前の二十面相と戦後の二十面相は別人ではないかと考えた。また明智小五郎も戦前と戦後では別人で、戦争後に小林少年が2代目明智小五郎を襲名し、浮浪者の少年を2代目小林少年として選んだのだと考えた。 「黄金髑髏の会」による『ぼくらにとっての「少年探偵団」』では、綾辻の説と北村の説に加え、『サーカスの怪人』と『魔法人形』の間でさらにもう一度二十面相の正体が入れ替わったと考え、全部で4人の二十面相を想定している。ポプラ社版の「少年探偵シリーズ」『大暗室』では、二十面相が残虐非道な殺人者として描かれているが、これは子供向けに氷川瓏 が代作し、犯人を二十面相に変更した事によるもので、乱歩の原典とはまったくの別物である。 これら登場人物の「別人入れ替わり説」の論拠に対して、乱歩本人の本文説明としては、戦後再開第一作である『青銅の魔人』で、はっきりと文中で戦前3作品の二十面相や明智、小林と戦後の彼らが同一人物であることが、文や本人らの会話で明言されている。二十面相の行動についても、戦前最後の登場作である『妖怪博士』で、すでにぬいぐるみを被って化け物に扮し、「小林と少年探偵団に復讐する」ことを宣言していて、戦後急に目的がぶれたわけではない。またそもそも戦後再開されたシリーズ全般でも、二十面相や明智、小林は相変わらず年を取っていない。
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