主砲と砲弾
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 06:35 UTC 版)
主砲は戦艦を戦艦たらしめる最重要の武装である。敵艦を圧倒するために大きく高威力の砲弾をより遠くへより正確に発射する必要がある。砲の大きさは、メートル法で設計製作された大和型であれば「45口径46センチメートル砲」、ヤード・ポンド法で設計製作されたアイオワ級であれば「50口径16インチ砲」と表現するのが正確である。「○口径」が砲身の長さを表す口径長(後述)、「○センチメートル」または「○インチ」が「砲身内径≒砲弾直径」である。 メートル法で設計製作された砲であっても、砲身内径を、インチで表現して切りの良い数字に近づけるのが通例。例えば、メートル法の提唱国であるフランスの戦艦主砲は当然にメートル法で設計・製造されているが、ダンケルク級は33センチメートル(約13インチ)、リシュリュー級は38センチメートル(約15インチ)である。 砲身の長さの表示については、「○口径」(○は砲身長を砲弾の直径で割った数字)と表し、これを口径長と呼ぶ。砲弾や発射薬などの諸条件が同じ場合、より長い砲身を用いて撃ち出す方が砲口初速を向上させるうえで有利となる。 1900年頃に各国海軍が有していた前弩級戦艦は、35口径12インチ(砲身長は420インチ=約11メートル)程度の主砲を連装砲塔に収め、艦の前後に1基ずつ(計4門)装備していた。その後、戦艦主砲は逐次巨大化し、日本の大和型の45口径46センチメートル(46センチメートル=約18.1インチ)砲(砲身長 20.7メートル)、アメリカのアイオワ級の50口径16インチ(16インチ=約40.6センチメートル)砲(砲身長800インチ=約20.3メートル)に達した。 発射する砲弾は、装甲で防御された敵大型艦に損害を与えられるようにするため徹甲弾が主であった。徹甲弾は、弾体の大半が硬い特殊鋼でできており、内部の炸薬の量は少ない。初期には炸薬を持たない実体弾も用いた。徹甲弾の信管は砲弾が敵艦の装甲を貫徹した後、敵艦の内部で炸裂する遅発式である。砲弾重量は12インチ砲で400kg程度、16インチ砲で1トン前後、大和型の46センチメートル砲で1.5トン程度である。この砲弾を、1門辺り毎分2発程度、砲口速度800メートル/秒程度で、2万メートルから3万メートル先の敵艦に向けて撃つ前提であった。徹甲弾が水面に着弾すると水中に潜った後に爆発し高い水柱を生じるため、着弾点の観測に用いた。 徹甲弾の他に、無装甲の目標(駆逐艦、輸送船、地上目標など)を射撃するための榴弾も搭載した。榴弾は、内部の炸薬が徹甲弾より多く、命中と同時に作動する瞬発信管を装備する。なお、日本海軍は戦艦の主砲を対空戦闘にも使う想定で、零式通常弾や三式通常弾といった特殊な対空砲弾を開発し、太平洋戦争の実戦で使用した。日露戦争時の日本海軍は対戦艦射撃に榴弾も併用することにより一定の効果を上げた。 大砲の威力は、砲弾の材質・構造・炸薬量が同等であれば、撃ち出す砲弾の重量と速度により決まる。砲弾の重量を決定するのは(砲弾の材質以外では)、砲弾の形状が相似であれば口径によって決まる。砲弾の形状がより長ければ、同一口径でも重量が増える。砲弾の速度を決定するのは、装薬の量と口径長である。口径長が大きければ、より長時間砲弾に運動エネルギーを与えるので、装薬の量が同じでも砲弾速度はより速くなる。ただし技術的限界を超えて装薬量を増やすと、砲身のブレによる命中率低下を招く。一般には口径が戦艦の主砲の威力をはかる基準値とされ、口径長は45口径前後で装薬量にも大差なく各国とも横並びであった。しかし例外もあり、第一次世界大戦までのドイツ戦艦は、装薬量を増やして砲弾速度を上げたため、口径ではひとまわり大きな英国戦艦の主砲と同等と言われていた。一方の英国戦艦は口径長の増大により対抗したこともあるが、結果として英国製50口径12インチ主砲は砲身のブレが大きく欠陥品とされる。第一次世界大戦後では、主砲の射程距離の延伸により、砲弾速度は重要な要素ではなくなった。長時間空中を進む砲弾の速度は空気抵抗により減少し、いくら高速で撃ち出しても最終的な砲弾速度には変わりがなくなったからである。むしろ山なりの砲弾が落下に転じた際の速度は砲弾重量によって決まるため、ほぼ砲弾重量のみが主砲の威力を決定することになった。第二次世界大戦時の米国戦艦の16インチ砲の砲弾は、長い形状によって重量を増しており、45口径砲は他国よりも砲弾速度は低速、50口径砲は他国の45口径と速度は同等であった。
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