ミュンヘン新芸術家協会と青騎士の時代(1907-1916)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/11 15:28 UTC 版)
「ガブリエレ・ミュンター」の記事における「ミュンヘン新芸術家協会と青騎士の時代(1907-1916)」の解説
旅行生活に一区切りをつけてミュンヘンに居を構えたころ、ミュンターは芸術的転機を迎える。夏のムルナウ滞在と集団での制作活動を通してカンディンスキーとミュンターは絵画技法の転換と、模索していたオリジナルな表現手段を見出していった。二人はペインティング・ナイフを画筆に持ち替え、きびきびした筆さばきと力強い色彩で身近な風景を描き始め、しばらくの後には近郊の湿原やバイエルン・アルプスの眺望を描いた。たとえばミュンターの「ムルナウ―ブルクグラーベン通り―」 では、スーラなどに代表される新印象派の点描技法とはほとんど対極を成すと言っていいほど大きな変化を見せている。ミュンターはムルナウで、新しいタイプの平面的で遠近法を超越した画面構成、簡潔でくっきりした暗い輪郭線と細部の単純化によるフォルムの強い規定、そして自然の事物に固有のものと考えられていた色からは完全に解き放たれた鮮烈な色彩といった諸々を獲得した。平面上で黒い輪郭に取り囲まれるように仕切られたモティーフの単純化は、それを獲得したヤウレンスキーが自分なりの考えでムルナウの友人たち、特にミュンターに伝えたものだったが、彼女はそれを自身の色彩表現で止揚した。 ムルナウではオーバー・バイエルン地方の宗教的な民衆芸術との強烈な出会いもあった。1909 年ごろから見られる二人の絵画の厳格な単純化は、民衆芸術の素朴で簡潔な手法に感化されたものであった。またミュンターは神秘化された宗教的な静物画を会得したが、これはカンディンスキーによって「力強く、複雑で内的な響きを持つ」と大いに賞賛された。1911年に描かれた「聖ゲオルギウスのいる静物」 では、青色を背景に白馬にまたがった聖人が竜に剣を突き立てている。このころ描かれた宗教的な静物画は、ミュンターの画業と「青騎士」の芸術の双方にとって、唯一無二の特徴となっている。カンディンスキーはこの「聖ゲオルギウスのいる静物」を年刊誌『青騎士』の挿絵とし、「強く複雑な内面の響き」と書き添えている。特にムルナウのガラス絵が、こうした宗教的絵画の源泉だった。当時のムルナウではガラス絵職人が伝統的方法で制作を行っていた。反自然的な、輝くばかりの深い色彩や直截な表現は二人に強い影響を与え、自らガラス絵の制作もした。 また二人は民衆芸術のみならず、素朴派やヨーロッパ以外の芸術からのインスピレーションを受けてそれまでの「様式」から脱却を試みたが、これを促したのは1907年から1909年ごろにかけて子供の描いた絵と関わり始めたことだった。子供の絵の極端な単純さが二人の絵画に単純化、とりわけカンディンスキーにおける1910年から1912年頃の絵画の形態の単純化をもたらした 。1910年のミュンターの絵画「まっすぐな道」 で彼女はムルナウとコッヘルをつなぐ街道を描いているが、ここではその当時彼女が制作した作品のいくつかにすでにみられる、対照を抽象化する原則が忠実に遵守されている。その原則とは、決然とした態度で絵画の伝統的な描き方と訣別する、単純さへと到達することであった。 この時期、カンディンスキーの作品にはミュンターとの類似が明らかに表れているが、これはミュンターの方からの影響によるものも大きかった。後年カンディンスキーは自身の芸術へのミュンターからの影響を否定しているが、総じてこの時期の二人は相互に良い影響関係にあったといえる。また「絵画の抽象化」という点においてはカンディンスキーの方が積極的であった。ミュンターも時折彼のこの姿勢に感化され、幾点かの抽象画を描いているが、それらは一から彼女の内面から創造したものではなく、静物画あるいは風景画のモティーフから導き出したものだった。ゆえに彼女の絵画は一生涯、対象たるモティーフから乖離することはなかった。しかしミュンターは非常に迫力ある絵画を描いている。気分の直観的な把握、単純化の才能によって彼女は、モティーフを絵の中に高次な表現として昇華した。ミュンターの絵画の心のこもった表現は特に静物画の神秘的な雰囲気に現われており、この点についてマッケが次のように指摘している。 その点では、これは『ドイツ的なもの』で、幾分か古風で、家庭的なロマンティシズムがあります — 1911年1月9日付、アウグスト・マッケからフランツ・マルク宛書簡
※この「ミュンヘン新芸術家協会と青騎士の時代(1907-1916)」の解説は、「ガブリエレ・ミュンター」の解説の一部です。
「ミュンヘン新芸術家協会と青騎士の時代(1907-1916)」を含む「ガブリエレ・ミュンター」の記事については、「ガブリエレ・ミュンター」の概要を参照ください。
- ミュンヘン新芸術家協会と青騎士の時代のページへのリンク