ホメーロス言語
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ホメーロス言語(英: Homeric Greek)は、ホメーロスの叙事詩『イーリアス』『オデュッセイア』に使われている古代ギリシア語の変種。イオーニアー方言・アイオリス方言・特殊な要素が混在しており、教科書的な古代ギリシア語(アッティカ方言)と大きく異なる。
解説
イオーニアー方言(古イオーニアー方言)を中核として[6]、アイオリス方言の要素や、ミュケーナイ・ギリシア語の残滓らしき語彙、不統一な文法規則が混在している[7]。枕詞(エピテトン)などの技巧[8][9]、固有名詞の異形も多い[10](例: アテーナイエー[10]、ポセイダーオーン[10]、アイデース[11])。
複雑さの理由は諸説あり[7][8][12]、ホメーロス問題とも関わる。口誦叙事詩のために作られた人工言語とも言われる[9][13]。ホメーロス言語の要素はヘーシオドス[13]、テュルタイオス[3]などにも見られる。
18世紀のベントレーは、ホメーロスにディガンマの痕跡を見出した[12][14]。
関連項目
関連文献
- Pharr, Clyde. Homeric Greek: A Book for Beginners. University of Oklahoma Press, Norman, new edition, 1959. Revised edition: John Wright, 1985. ISBN 0-8061-1937-3. First edition of 1920 in public domain.
- 松本克己「ホメーロスの言語の方言的・年代的諸相」『西洋古典学研究』第20号、日本西洋古典学会、1972年。 NAID 110007381959 。
- 松本克己「ホメロスの言語の方言的・年代的諸相」『歴史言語学の方法 ギリシア語史とその周辺』三省堂、2014年。 ISBN 9784385362786。
- 吉田育馬「ホメーロス・ギリシア語における語根アオリストの用例と印欧語理論に基づくその解析」『言語学論叢』第15-16号、筑波大学一般応用言語学研究室、1997年。 NAID 110000384205 。
脚注
- ^ 池田英三「ホメーロスの比喩 : その問題点を尋ねて」『北海道大學文學部紀要』19、1971年。 NAID 120000952199。8頁。
- ^ 松本 1972.
- ^ a b G・ハイエット 著、村島義彦 訳「翻訳 パイデイア(その5) : ギリシア文化を彩る理想の数々」『立命館文学』632、立命館大学人文学会、2013頁。 NAID 110009691530。57;64頁。
- ^ 松本 2014.
- ^ 吉田 1997.
- ^ マルティン・チエシュコ 著、平山 晃司 訳『古典ギリシア語文典』白水社、2016年。 ISBN 9784560086964。352頁。
- ^ a b 逸身喜一郎『ギリシャ・ラテン文学 韻文の系譜をたどる15章』研究社、2018年。 ISBN 9784327510015。54頁。
- ^ a b 松平千秋「語り物としてのホメロス」『ホメロスとヘロドトス : ギリシア文学論考』筑摩書房、1985年。NDLJP:12575436/10。9頁。
- ^ a b 高津春繁『ホメーロスの英雄叙事詩』岩波書店〈岩波新書〉、1966年。NDLJP:1698446/73。134-144頁。
- ^ a b c 中務哲郎 訳『オデュッセイア』京都大学学術出版会〈西洋古典叢書〉、2022年。 ISBN 9784814004225。凡例。
- ^ 松原國師『西洋古典学事典』京都大学学術出版会、2010年。 ISBN 9784876989256。918頁。
- ^ a b ミシェル・ブレアル 著、工藤進 訳「ホメーロスをよりよく知るために 文学史としての問題」『言語文化』26、明治学院大学言語文化研究所、2009年。 CRID 1050001202552650880。13-14頁。
- ^ a b 沓掛良彦『ギリシアの抒情詩人たち 竪琴の音にあわせ』京都大学学術出版会、2018年。 ISBN 9784814001309。30頁。
- ^ 片山英男、平凡社、改訂新版 世界大百科事典『ベントリー』 - コトバンク
ホメーロス言語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/16 02:13 UTC 版)
ホメーロスの言語(フランス語版)は叙事詩で用いられた言語であり、紀元前8世紀には既に古風なもので、テクストが固定された紀元前6世紀にはなおのことそうであった。ただし、固定が行われる前に、古風な表現の一部は置き換えられ、テクストにはアッティカ語法(フランス語版)も入り込んだ。 長短短六歩格の韻律は、当初の形を復元できる場合があり、またある種の言い回しが行われる理由も説明できることがある。この例として、紀元前1千年紀のうちに消滅した音素であるディガンマ(Ϝ /w/)が、ホメーロスにおいては依然として韻律上の問題の解消のために表記も発音もされないながらも用いられたことがある。例えば『イーリアス』の第1歌108行は―― 「 ἐσθλὸν δ’ οὔτέ τί πω [Ϝ]εἶπες [Ϝ]έπος οὔτ’ ἐτέλεσσας(汝、好事を口にせず、はた又之を行はず。〔土井晩翠訳〕) 」 古風な-οιοとより新しい-ουの2種の属格や、また2種の複数与格(-οισιと-οις)が競合して用いられることは、アオイドスが自分の意向で古風・新風の活用形を切り替えられたことを示している――「ホメーロス言語は、通常は決して同時に用いられることのなかった様々な時代の形式の混淆物であり、これらの組み合わせは純粋に文学的な自由さに属するものであった。」(ジャクリーヌ・ド・ロミリ(フランス語版)) その上、ホメーロス言語は異なった方言も組み合わせる。アッティカ語法や、テクストの固定の際の変化は取り除くことができる。イオニア方言とアイオリス方言の2つが残り、それらの特徴の一部は読者にも明白である――例えば、イオニア人はアッティカ=イオニア人[訳語疑問点]が長音のアルファ(ᾱ)を用いるところでエータ(η)を用い、よって古典的な「アテーナー」や「ヘーラー」の代わりに「アテーネー」ヤ「ヘーレー」と言う。こうした2つの方言の「還元不可能な共在」(ピエール・シャントレーヌ(フランス語版)の表現)は、様々な方法で説明しうる―― アイオリスで創作され、イオニアへと渡った。 2つの方言の両方が用いられていた地域で創作された。 異なる時代の形式の混淆と同様に、主に韻律などのためにアオイドスが自由な選択を行なった。 実際のところ、ホメーロス言語は詩人たちにとってしか存在しなかった混合言語であり、現実には話されず、そのことが叙事詩が日常の現実との間に作り出す断絶を強めている。ホメーロスの時代よりもずっと後になると、ギリシアの作家たちはまさに「文学らしくする」ためにこホメーロス的な語法を模倣するようになる。
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