フーガ変ロ長調
バッハ:フーガ 変ロ長調 (ラインケンの主題による)
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ 変ロ長調 (ラインケンの主題による) | Fuge nach Reinken B-Dur BWV 954 | 作曲年: before 1717年 出版年: 1880年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
ヤン・アダム・ラインケン(1623-1722)はハンブルクの教会オルガニストで、バッハの時代にはオルガン芸術の巨匠として名を知られていた。1720年にバッハがハンブルクに求職した時、ラインケンは試験演奏に接し、伝統的な技法を自在に操るバッハの技量を絶賛したという逸話が伝えられている。
BWV954のフーガは、それより少し前、ヴァイマールで過去の音楽作品を研究していた時期に生まれた。原曲はラインケンの器楽アンサンブル曲集『音楽の園 Hortus musicus』(1687)、ハンブルク)第2番。元はヴァイオリン2パート、ヴィオラ・ダ・ガンバ、チェンバロの4パートを想定しており、ソナタと組舞曲を1セットとする30曲から成る。舞曲はアルマンド、クーラント、サラバンド、ジグの基本4曲、ソナタは緩い序奏部、フーガ、自由展開部に分かれる。バッハが用いたのはこのソナタのフーガ主題で、原曲ではヴァイオリンが受け持っていた。バッハは主題後半、同音反復の部分を回音に変更している(第3-4小節)。これは、ヴァイオリンの語法から鍵盤の語法への転換である。全体はこの主題素材から紡ぎだされる。
この曲に関する記事でしばしば「編曲」とされているのは正確でない。バッハは巨匠の主題から新たに独自のフーガを書いた。そこには、柔軟で明澄なバッハ独特のスタイルがすでに芽吹いている。最低声部は主題提示やバス音の保持だけでなく、細かな音型を連ねて対位法に参入する。即興風の単調な摸続進行や掛留は出来るだけ排除されている。終結部分は唐突な中断や分散和音のフィギュレーションなどがなく、最低声部での主題提示の後をすっきりとまとめている。
ヴァイマール期のクラヴィーア・フーガには、初期様式からの脱却が明らかにみてとれる作品群があるが、この曲もそうした中のひとつである。
バッハ:フーガ 変ロ長調 (エルゼーリウスの主題による)
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ 変ロ長調 (エルゼーリウスの主題による) | Fuge nach Erselius B-Dur BWV 955 | 作曲年: before 1717年 出版年: 1880年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
ここに名を残している「エルゼーリウス」がいったい誰なのか、ということは現在、問い直されている。ト長調の稿BWV955aを伝える筆写資料に「フライベルクのオルガニスト」と書き込まれたことが混乱の原因となった。これを受けて旧全集では「J.C. エルゼーリウス」とされたのだが、この人物はバッハよりも完全に一世代あとの音楽家であるから、実際には当てはまらない。もっとも、バッハの創作史や伝記を再構築する上で「エルゼーリウス」についての関心は尽きないのだが、この作品を演奏する上では主題の原曲の作者はあまり問題ではないだろう。
BWV955はヴァイマール以前の初期フーガの一つとして、古いスタイルを残している。主題素材によらない単調な摸続進行や装飾音型、声部の独立性を乱す三和音など、熟し足りないところも散見される。しかし、朗々とした四分音符の主題と十六分音符の装飾的なフィギュレーションの絡み合いが、全体を簡明で判りやすいものにしている。また、音域とテクスチュアも刻々変化し、低音域から重々しく始まり、中音域で展開を始め、低音がやんで高音域にきらきらと漂ったあと、ずしりと低音が戻ってくるなど、劇的な演出がなされている。
こうした経過の中で、四分音符の主題は、聞き取るべきテーマというよりも曲全体を支える屋台骨としてやや後景に退いている。そこには、きらびやかな装飾音の可能性が演奏者に開かれているだろう。
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