モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第16(15)番 ハ長調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第16(15)番 ハ長調 | Sonate für Klavier Nr.15 C-Dur K.545 | 作曲年: 1788年 出版年: 1805年 初版出版地/出版社: Bureau d'arts et d'industrie |
楽章・曲名 | 演奏時間 | 譜例 | |
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1 | 第1楽章 Mov.1 Allegro | 4分30秒 | |
2 | 第2楽章 Mov.2 Andante | 4分00秒 | |
3 | 第3楽章 Mov.3 Rondo-Allegretto | 1分30秒 |
作品解説
モーツァルト自身がつけていた『自作目録』には、1788年6月26日の日付があり、「初心者のための小クラヴィーア・ソナタ」と書かれている。ウィーン時代に作曲されたクラヴィーア・ソナタには、作曲の経緯が明らかとなっているものがなく、このソナタも『自作目録』のタイトルから、おそらく弟子のために書かれたものか、レッスン用の曲を依頼されて作曲したものと推測されるが、着手の経緯は不明のままである。
このソナタが、今日でもピアノのレッスン教材として広く親しまれていることは、作曲者によって記入された「初心者用」のタイトルが付されていることも然ることながら、簡素な旋律やコンパクトにまとめられた形式をもっていることからも、うなずける。
第1楽章 ハ長調 4分の4拍子 ソナタ形式
アルベルティ・バスの上に、重音をともなわないシンプルな旋律による主要主題が提示される。音階パッセージによる推移(第5小節~)を経て、同様にシンプルな楽想の副次主題が属調のト長調であらわれる(第14小節~)。分散和音による推移(第18小節~)の後に、短いコーダをともなって前半を閉じる。
後半(第29小節~)は、属調の同主短調であるト短調で、主要主題によって開始され、すぐに二短調へ転じる。そして、音階パッセージによってイ短調からヘ長調へ至る。
主調の下属調であるヘ長調で主要主題が再現され(第42小節~)、音階パッセージによる推移部が拡大される(第46小節~)。
この下属調による主要主題の再現は、しばしば特異なものとして指摘されるが、本来2部形式が発展したソナタ形式にとっては決して珍しいことではない。たしかに、モーツァルトの他のクラヴィーア・ソナタには例がないが、古いタイプのソナタには下属調での再現が見られ、シューベルトのソナタにも例が認められる。
むしろ重要なことは、この下属調への転調が不可避なものではなく、意図的であると考えられることである。というのも、主題再現直前の調性はイ短調を取っており、平行長調であるハ長調(主調)への転調は、自然に行うことができたはずだからである。
また、音階パッセージによる推移部の拡大によって、調性はヘ長調からハ長調へ転じるが、結局は提示部と同様に属和音に終止してしまうため、副次主題の再現は唐突な印象すら与える(自然な再現を目指すならば、ハ長調の主和音に終止する必要がある)。とすれば、実は、この音階パッセージの拡大に意図があり、それは「初心者のための」というタイトルから引き合いに出せば、左右の手による音階練習を意図的に組み込んだのかもしれない。
以降、主調による副次主題の再現(第59小節~)と、分散和音による推移を経て、前半と同様のコーダをもって楽章を閉じる。
第2楽章 ヘ長調 4分の3拍子
Andanteの緩叙楽章。終始アルベルティ・バスの上に旋律が奏でられる。旋律の中には、音階、分散和音といった音型と、レガート、スタッカートという対照的なアーティキュレイションが盛り込まれている。こうした表情豊かな旋律は、モーツァルトの作品において珍しいものではないが、これらが、意図して用いられたと考えることもできよう。
全体は3つの部分からなり、第1部と第2部はそれぞれ反復記号によって繰り返されるが、第3部は前半の前半2部分の倍程度の小節数をもっており、大きなバール形式ととらえることもできよう。
第1部では、8小節の主題とその変奏、第2部(第17小節~)は属調にはじまり、主調で第1部の後半部分を繰り返し、簡潔な2部形式を構成している。
第3部(第33小節~)は同主短調のト短調で開始され、主題が変奏される。変ロ長調、ハ短調を経て再びト短調へ回帰するが、すぐにト長調へと転じて主題を再現する(第49小節~)。最後に下属調のハ長調を経由して楽章を閉じる。
第3楽章 ハ長調 4分の2拍子 ロンド形式
ロンド主題は、3度の重音で3度下降跳躍する上声部を、低声部が模倣する動機によって特徴づけられている。この「3度の重音」は随所に用いられており、この楽章における学習課題であると考えられる。属調のト長調でのクープレ主題、平行短調のイ短調へ転じた中間部、それぞれにロンド主題における3度重音の動機があらわれている。
以上のように、このソナタを学習用という観点から分析すると、各楽章に学習課題が用意されており、それらを十分に消化することができるように楽曲が構成されていることが分かる。
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