クローハーストのボートとレースへの準備
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/08 09:17 UTC 版)
「ドナルド・クローハースト」の記事における「クローハーストのボートとレースへの準備」の解説
詳細は「テインマス・エレクトロン(英語版)」を参照 クローハーストがゴールデン・グローブ・レースに参加するために建造したヨットは、テインマス・エレクトロン(英語版)(英: Teignmouth Electron)と名付けられた長さ40フィート(約12メートル)のトリマラン(三胴船、主船体の両脇に2つの副船体を持つ)であった。この船は、カリフォルニアのアーサー・パイヴァー(英語版)によって設計され、建造費は12,000スターリング・ポンドであった。この建造費はスポンサーからの借金で賄われている。当時、トリマランが世界一周のような長期の航海に用いることが可能な形式であるかどうかは不確かであった。トリマランは、単胴船のヨットと比較してより高速な航海が可能なポテンシャルを持っている。その一方で、特に初期の設計では積載量が多いと非常に遅くなるうえに、風上に近い方向に航海することが相当に難しいという特性を持っていた。トリマランはその安定性から多くのセーラーに人気があったが(たとえば巨大波などによって)一度転覆してしまうと、単胴船とは異なり、外部からの援助なしには正常な状態に復帰させることが難しく、船員にとっては致命的な惨事となってしまう危険性をはらんでいた。 ヨットの安全性を向上させるために、クローハーストは膨脹式の浮袋をマストの先に設置し、転覆を防ごうとした。ヨットが転覆しかけると、船体に設置された水センサーがそれを検知して浮袋が膨張する仕組みであった。この装備により、船体が横倒しになったところで転覆は止まる。さらに、巧妙に配置されたポンプによって、上になった側の副船体に水が注入され、その重みが波の動きと相まってボートを直立状態に引き戻す。自ら開発したこれらの装備とともに世界一周を達成することで有用性を証明し、製造・販売事業を展開するのがクローハーストの目論見であった。 しかしながら、出資を確保しつつヨットを建造し、機器の設置を行うためにクローハーストに与えられた時間は非常に短かった。結局クローハーストは、装備する予定だった安全機器のすべてが不完全な状態で出港せざるを得なかった。クローハースト自身は出港後、航海中にこれらの機器を完成させるつもりだった。同様に出港期限間際の混乱によって、クローハーストはヨットの予備部品や備蓄品を置き忘れて出港している。挙句の果てには、クローハーストは自身の船が完成するまで、トリマランでセーリングを行ったことすらなかったのである。 1968年10月13日、経験豊富なセーラーであるピーター・エデン海軍少佐が、レース前のクローハーストがカウズ(英語版)からテインマス(英語版)へ航海する最後の航程に同行することを申し出た。クローハーストはカウズにいる間に幾度となく落水しており、そしてエデンとともにテインマス・エレクトロンに乗り込む際にも、小型ゴムボートの船尾を船外に取りつける腕金に滑って転倒し、再び落水してしまった。クローハーストと過ごした2日間について語るエデンの言葉は、クローハーストのセーラーとしての能力および彼の船に対する独立評価としてもっとも信頼のおけるものである。エデンの回想によれば、テインマス・エレクトロンはとても高速に航行できる一方で、風上に対して60°以下の角度を取ることが難しかった。その速度はしばしば12ノット(約22.2km/h)に達したが、振動が発生してハスラー自動操舵装置のねじが緩んだという。エデンは「ねじを締めるため、船尾に寄りかかりっぱなしでいなければならなかった。難しくて時間がかかる作業だった。私はクローハーストに、もし長い航程の中でその操舵装置を使い続けたいならば、接合部は溶接しなければならないと伝えたんだ」と述べている。エデンは同時に、操舵装置の機能自体にはまったく問題がなく、ヨットは「間違いなくよく走る」と評している。 エデンによれば、クローハーストのセーリング技術は高かったとのことだが、「私は彼の航海は少々向こう見ずであると感じていた。私は、たとえ水路の中であっても自分自身がどこにいるのかを正確に把握することが重要だと考えている。彼はそのことについてあまり思い悩むことはなく、ときどき数枚の紙に単に図式を書くだけだった」と述べている。偏西風に対抗して水路に入るために2度上手回しを行わなければならなかったものの、10月15日14時30分にクローハーストらはテインマスの港に到着した。そこでは、熱狂的なBBCのテレビクルーらが、エデンをクローハーストと信じ込んで撮影を始めるという一幕もあった。この時点で、レースの出港期限である10月31日まで残すところ16日となっていた。
※この「クローハーストのボートとレースへの準備」の解説は、「ドナルド・クローハースト」の解説の一部です。
「クローハーストのボートとレースへの準備」を含む「ドナルド・クローハースト」の記事については、「ドナルド・クローハースト」の概要を参照ください。
- クローハーストのボートとレースへの準備のページへのリンク