イオニア式とコリント式の萌芽
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「ギリシア建築」の記事における「イオニア式とコリント式の萌芽」の解説
イオニア式は、紀元前6世紀末には小アジアと交易を行っていたイタリア南部に及び、パエストゥムのヘーラー第1神殿の細部装飾にその影響が窺われるが、本格的な導入は、紀元前500年頃に建設されたアテーナー神殿の内陣前柱においてであった。南イタリアと同じように小アジアと交流の深かったアテナイも、紀元前5世紀頃にイオニア式を導入するようになり、紀元前450年頃には、アッティカで最初のイオニア式である女神デーメーテールの神殿(現在は消失)が建設された。イオニア式は、建築を優雅で華美なものにするというイオニア人特有の美意識によって形成されたが、アテナイにおいてもこれは受け入れられ、独自にアレンジされて表現された。 紀元前437年から紀元前433年に建設されたプロピュライアは、アクロポリス唯一の入り口であり、すでにミュケナイ時代から門があったことが知られている。正面は、中央通路部分をやや広くしたドーリア式オーダーの列柱で構成されているが、内部通路はイオニア式が配置されている。また、西面南側の壇上には、プロピライアのドーリア式と対照を成す女神ニーケー・アプテロス(翼なき勝利の女神)の神殿が建っている。このアテーナー・ニーケー神殿は、ペロポネソス戦争が一時的に収束し、アクロポリス再建計画が最終段階に入った紀元前427年に、ペルシア戦争の勝利(カリアスの和平)を記念して建設されたものである。幅4.13m、奥行3.83mのイオニア式小神殿で、表裏ともに前柱式の平面を持つアンフィ・プロスタイルと呼ばれる形式である。円柱と内陣を囲む壁は、ともに半円のトルスを持つ基壇の上に載り、浮き彫りを施したフリーズを持つエンタブレチュアをその上部に巡らせて、正面および背面、そして側面を統一している。また、神殿下部のアクロポリスの城壁の縁にも女神の浮き彫りが取り付けられた。アテーナー・ニーケー神殿のように、小規模の建築にイオニア式オーダーを用い、彫刻などで装飾するという手法は、紀元前4世紀頃に葬祭建築に応用されることになる。 アクロポリスの最も神聖な場所であり、アテーナー・ニーケー神殿と同時期に起工されたエレクテイオンは、ペロポネソス戦争の再開によって紀元前409年まで工事が中断し、完成したのは紀元前406年である。宗教行事を行う機能上、それまでの神殿よりも複雑な平面を持つが、内部は保存状態が悪いため、いくつかの復元案がある。基礎以外はペンテリコン産の白大理石で造られているが、フリーズはエレウシス産の青灰色石灰石で、表面に大理石の浮き彫りを釘留めしていた。入り口は正面にあたる東側と北側に設けられ、北入口は敷地の高低差により東より低く、そのポーチは建物本体から西に雁行して取り付けられている。南面には西端にカリアティディス(女性像型の柱)を持つ演壇があるが、特に対称性や全体の秩序は意識されておらず、建築としてはまとまりに欠ける。しかし、こうした不整形な平面の建物にイオニア式を採用することができたのも、イオニア式の調和性と形態の自由さ故のことである。 紀元前5世紀後半になると、イオニア式の影響はギリシア本土におよぶが、小アジアのものと比較すると柱基の形式やフリーズの有無、ディンティルの有無といった相違がある。ヘレニズム時代に一般的となるイオニア式は、総じてギリシア本土で形成されたものを基本としているが、装飾性の高いイオニア式は、ドーリア式よりも細部の変化が大きく、紀元前5世紀末から発展するコリント式オーダーは、アッティカ風イオニア式オーダーの発展形態と考えられている。従って、ギリシア建築のコリント式はオーダーとしての独立性に乏しく、ドーリア式の柱に採用されることもあった。 紀元前675年に遡る歴史を持つとされるバッサイ神域のアポローン・エピクリオス第IV神殿は、紀元前5世紀末に建設された、幅14.4m、全長37.8mの周柱式神殿である。パウサニアスはイクティノスが設計したものとしているが、エンタシスや細部の比例はパルテノーンほど精密ではない。外部の円柱はドーリア式であるが、内陣はたいへん個性的で、付け柱というにはあまりに突出した、ほとんど控壁のようなイオニア式の柱型が並べられた。このような壁付きイオニア式は、おそらくギリシア最古の実例である。また、内陣の中央には一本のコリント式円柱が設けられたが、このコリント式についても、神殿に採用されたものとしては、ギリシア最古のものである。
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