『アルフレッド王の生涯』の歴史
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「アッサー」の記事における「『アルフレッド王の生涯』の歴史」の解説
『アルフレッド王の生涯』は中世にはあまり有名でなく、コットン文庫に所蔵された写本1冊のみが残っていた。この写本は1000年ごろに作成され、1731年の火事で焼失している。これほど写本が広まらなかったのは、原本が未完成だったためにアッサー自身が写しを作らなかったためだと考えられる。ところが、『アルフレッド王の生涯』の内容は他の様々な文献に引用されている。12世紀までに『アルフレッド王の生涯』に触れた文献として、以下のような例がある。 12世紀のダラムのシメオンの『イングランド・デーン諸王史』(ラムゼーのバートファースによる11世紀後半の作品だとする説もある)には、『アルフレッド王の生涯』の大部分が含まれている。この際の底本はコットン版が用いられたとみられる。 1040年代前半に成立した作者不詳の『エンコミウム・エマエ』にも一部が含まれているが、この作者がいかにして『生涯』を知ったのかは不明である。作者はフランドルのサン=ベルタン修道院の僧とされ、イングランドで『生涯』を知った可能性がある。 12世紀前半のウスターのフローレンスによる年代記にも一部が含まれている。底本はコットン版が用いられたとみられる。 12世紀前半後期にベリー・セント・エドマンズの年代記者によって成立した『セント・ネオッツ年代記』にも『生涯』の内容がみられるが、記述がより正確と思われるため、底本はコットン版ではないと考えられている。 1190年代にウェールズのジェラルドがヘレフォードで著したとされる『聖エゼルベルトの生涯』では、アッサーによるマーシア王オファに関する記述を引用している。この記述は現存する『アルフレッドの生涯』の中には見られないことから、ジェラルドは他の写本、もしくはアッサーの現在発見されていない別の著作を利用したものと思われる。また、ジェラルドがアッサーの名を借りて自身の記述を正当化しようとした可能性も考えられる。というのも、ジェラルドは必ずしも信用のおける著述家とはみなされていないからである。 コットン版写本自体も数奇な運命をたどっている。まずこの写本は、上記のダラムのシメオン(もしくはラムゼーのバートファース)やウスターのフローレンスが所有していたものと考えられている。写本の出現が確証されているのは1540年代のことで、おそらく直前の修道院解散の影響で古物収集家のジョン・リーランドの手にわたっている。1552年にリーランドが死去したのちに、経緯は不明だがマシュー・パーカーの所蔵となる。パーカーは1575年に死去した際にその蔵書のほとんどをコーパス・クリスティ・カレッジに遺贈したが、その中にコットン版写本は含まれず、1600年までにジョン・ラムリー男爵の、そして1621年までにロバート・ブルース・コットンの所蔵するところとなった。ウェストミンスターの邸宅にあったコットン文庫は1712年にロンドン・ストランドの邸宅へ、そして1730年にウェストミンスターのアッシュバーナム・ハウスに移された。そして1731年10月23日土曜日の朝、火災によりコットン文庫版写本は焼失した。 その結果、アッサーの『アルフレッド王の生涯』の内容は他の文献に引用された文章や二次写本からうかがえるのみとなった。コットン版の写本は多数制作され、また先述のように多数の年代記作家に引用されていることからも『アルフレッド王の生涯』は注目を集めるようになった。しかし原本が現存しておらず、また初期の二次写本の注釈で『アルフレッド王の生涯』以外の文献に由来する記述が原典と混同されたために、本来の『アルフレッド王の生涯』の内容を確定することが難しくなってしまった。現在までに、内容が若干異なる版がいくつもラテン語・翻訳版で出版されている。1904年のW・H・スティーヴンソンによる書評『アッサーのアルフレッドの生涯と、誤ってアッサーの作とされているセント・ネオッツ年代記』(Asser's Life of King Alfred, together with the Annals of Saint Neots erroneously ascribed to Asser)では、一般的なラテン語版の文章が載せられている。この本は1905年にアルバート・S・コックにより英訳された。最近の重要な英訳版として、1983年にサイモン・カインズとマイケル・ラピッジが学術的な問題点などの注記を施した『アルフレッド大王 アッサーのアルフレッド王の生涯と他の同時代の文献』(Alfred the Great: Asser's Life of King Alfred and Other Contemporary Sources)を出版している。
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