四斤山砲 日本での使用

四斤山砲

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/27 03:43 UTC 版)

日本での使用

戊辰戦争で使用された四斤山砲弾。京都の霊山歴史館収蔵。

四斤山砲は、幕末の日本にも導入され、戊辰戦争から西南戦争にかけての主力野戦砲として使用された。オランダからの情報で輸入が始まり、幕府陸軍をはじめ薩摩藩などの各藩が洋式野戦砲として導入した。輸入品ばかりでなく、後述するように国内でのコピー生産も行われた。日本で最初に本砲を実戦使用したのは幕府陸軍で、1866年慶応2年)の第二次長州征討において使用した[3]

日本で四斤山砲が主力野戦砲としての地位を占めた理由としては、以下が挙げられる[3]

  • 軽量で分解可能な山砲が、山がちで輓曳用道路の整備も不十分な地理事情、軍馬不足という軍備状況に適合していた。
  • 青銅砲なので、鉄製砲よりも技術的に製造が容易だった。材料も国内調達が容易だった。
  • 発射速度を除けば最新式の後装砲にも劣らない性能だった。

1864年元治元年)には、コピー生産の試みが、幕府の関口製造所や薩摩藩の集成館で始まった。砲身切削用の工作機械の輸入も行われている。これらの兵器工場ではすでに洋式火砲の製造経験があったが、四斤山砲の場合は内部を切削するという新技術を要するうえ、#開発で触れたライフリングに関する工夫が機密事項とされていたため、完全な製品を生み出すにはそれなりの苦労を要した。実際、福島県の白虎隊記念館に現存する薩摩製と思われる四斤山砲は、工作精度が甘い仕上がりである[5]。幕府の関口製造所は、最終的に極めて精巧なコピー品の製造に成功している。フランス軍事顧問団による指導があったとも推測されているが、幕府の技術者だった武田斐三郎が指導を求めた際には軍事機密であると拒否されたという記録もある[5]

その後、薩摩藩では、砲身を延長した長四斤山砲という独自改良型も開発している。これは大山弥助(後の大山巌)が設計したともいわれ、「弥助砲」の呼び名がある。生産は明治時代になってから行われた。生産数はそれほど多くなく、後に陸軍の予備火砲となった。鹿児島県の尚古集成館に現物が展示されている。さらに、大山弥助は四斤山砲の軽量化も試みており、この軽量型は村田経芳の手を経て1885年(明治18年)に完成し、やはり「弥助砲」の名で呼ばれる[8]。なお、他に「弥助砲」の名で呼ばれるものとして、同じく大山弥助設計とされる十二斤綫臼砲もある。

新島八重は四斤山砲の不発弾を分解して会津の女性達に構造を説明し、武器の知識を得させた[9]

二本松藩二本松少年隊の主力野戦砲である。二本松の戦いでは新政府軍を戦闘中の一時期は圧倒した。

明治時代に入ってからも四斤山砲の生産は大阪砲兵工廠で続けられた。より高性能な後装砲であるブロドウェル山砲やクルップ製の克式七珊半野砲なども輸入されていたが、これらは材料の自給が難しい鋼製火砲だったがゆえに主力火砲には選ばれなかったのである。四斤山砲は台湾出兵に使用されたほか、西南戦争では政府軍と西郷軍双方が四斤山砲を使用している。その後は青銅製の後装砲である七珊野砲(原型はイタリア製)が制式となって国産化され、主力野戦砲の更新が進んだ。退役した四斤山砲や四斤野砲の中には、払下げとなって午砲として使用された例もあった[10]


  1. ^ 幕末軍事史研究会(2008年)、90頁による数値。英語版en:La Hitte systemでは0.82m、0.86mともある。
  2. ^ 読みは、熊本市立熊本博物館公式ウェブサイト展示解説に拠った。
  3. ^ a b c d 幕末軍事史研究会(2008年)、90頁。
  4. ^ 12斤カノン砲装備のナポレオン3世の軍がクリミア戦争で活躍したことに由来。
  5. ^ a b c 幕末軍事史研究会(2008年)、91頁。
  6. ^ “Rifled Ordnance in England and France,” pp. 500-501.
  7. ^ ただし、旧式の12斤カノン砲ライフル改造型は、出動はしたものの発砲はしていない。(“Rifled Ordnance in England and France,” p. 505.)
  8. ^ 靖国神社(2003年)、35頁。
  9. ^ タイムスクープハンター(NHK総合1ch 2013年7月20日放送分「会津 女達の決死行!」番組内説明
  10. ^ 陸軍省 「不用砲払下の件」 アジア歴史資料センター Ref.C04014313700、明治40年12月「壹大日記」(防衛省防衛研究所


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