剣
『アーサーの死』(マロリー)第1巻第25章 アーサー王と魔法使いマーリンが馬に乗って広い湖まで来ると、湖の真ん中から、白い絹をまとった腕が出ており、腕は剣(=エクスカリバー)を握っていた。マーリンが「剣と鞘をお取りなさい」と言うので、アーサー王は小舟で腕の所まで行き、剣と鞘を引き抜く。すると腕は水中に消えた。マーリンは、「この鞘を身につけている間は傷を負いません」と、アーサー王に教える。
『曽我物語』巻8「箱根にて暇乞の事」 鞍馬寺の毘沙門天に籠められた父義朝の太刀を、牛若が「一目見せ給え」と祈念して、太刀を賜るとの夢想を得る。急いで毘沙門天に参じると、現実に戸が開き太刀があった。
『紅葉狩』(能) 紅葉狩りの美女(=実は鬼)の勧める酒に、平維茂は酔い臥す。八幡宮に仕える末社の武内の神が維茂に夢告をし、太刀を授ける。目覚めた維茂は、授かった太刀をふるって鬼を退治する。
*→〔頭〕4の『ルスランとリュドミラ』(プーシキン)第3歌・〔熊〕1の『古事記』中巻(神武天皇)・〔前世〕1aの『とはずがたり』巻4・〔夢で得た物〕1の『平家物語』巻3「大塔建立」。
*スサノヲは、ヲロチを退治して得た太刀を、自分で所持せず、姉アマテラスに献上する→〔尾〕8の『古事記』上巻。
★1b.一人の英雄だけが、石や木から剣を引き抜くことができる。
『アーサーの死』(マロリー)第1巻第5~7章 クリスマスの朝。ロンドンの教会の境内に四角い大石が出現し、剣が切っ先を下にして刺さっていた。そして金文字で「この剣を引き抜く者は、イングランドの王となるべく生まれた者である」と、記されていた。大勢の騎士たちが試みるが、誰も剣を抜けない。少年アーサーだけが、やすやすと剣を引き抜いて、王位につく。
『アーサーの死』(マロリー)第13巻第2~5章 アーサー王の城のそばを流れる川に、大きな石が浮かび、剣が刺さっていた。剣の柄頭には金文字で「われを石から引き抜く者は、この世で最も優れた騎士である」と記されていた。何人もが失敗した後に、ラーンスロット卿の息子ガラハッドが、剣を引き抜いた〔*この剣は、かつて騎士ベイリンが所持していたものだった→〔決闘〕2〕。
『ヴォルスンガ・サガ』3 ヴォルスング家の祝宴の夜、片目の老人(=実は大神オーディン)が入って来て、広間にある大木に剣を突き刺し、「引き抜いた者にこの剣を授ける」と言って去る。ヴォルスング王の子シグムンドが、幹から剣を引き抜く。
『ニーベルングの指環』(ワーグナー)「ワルキューレ」「ジークフリート」 かつて片目の大神ヴォータンが、とねりこの幹に剣を刺して去り、誰もそれを引き抜くことができなかった。ジークムントが幹から剣を引き抜いて「ノートゥング」と命名し、この剣を持って闘いに出た(*→〔剣〕3)。また、ジークムントの息子ジークフリートは、後に「ノートゥング」の破片から新たな剣を鍛え上げ、この剣で大蛇を退治した。
『英雄伝』(プルタルコス)「テセウス」 アイゲウス王はトロイゼンの地でアイトラと交わった後、岩の下に剣と靴を隠し、「もしも息子が生まれ成長したら、この品を持たせて私の所へよこせ」と告げて、アテネへ去った。やがてアイトラはテセウスを産み、青年となったテセウスは、剣と靴を持ってアテネへ行き、アイゲウス王の跡継ぎとなった。
『三国史記』巻13「高句麗本紀」第1 朱蒙は扶餘の地で礼氏の娘をめとった。彼は「もしも男児が生まれ、七稜の石の上・松の下にあるものを見つけたら、それこそ我が子だ」と告げて、南方へ行き、高句麗を建国した。やがて礼氏の娘は類利を産み、類利は家の柱(=松)の礎石(=7つのかどがあった)の所を探して断剣を得た。類利は断剣を持って父朱蒙を訪ね、跡を継いで高句麗の第2代・瑠璃明王となった。
『捜神記』巻11-4(通巻266話) 干将莫耶(かんしょうばくや)が、雌雄2剣のうち雄剣を隠し、雌剣だけを楚王に献上して、殺された。干将莫耶の息子・眉間尺は、亡父の残した言葉「松石上に生ひ、剣その背にあり」を母から聞いて、礎石上の松柱の後を打ち破り、雄剣を見出す。彼はこの剣で、父の仇・楚王を討とうと心に期す〔*『今昔物語集』巻9-44・『太平記』巻13「干将莫耶が事」などに異伝〕→〔仇討ち〕1a。
『アーサーの死』(マロリー)第21巻第5章 戦闘で致命傷を負ったアーサー王が、エクスカリバーを水の中へ投げ込むよう、ベディヴィア卿に命じる。ベディヴィア卿は剣を惜しんで、木の下に隠す。しかしアーサー王の「剣を投げた時、何を見たか?」との問いに、「波と風だけです」と答えたので、嘘がわかってしまう。2度これが繰り返された後、3度目にベディヴィア卿はエクスカリバーを水の中に投げる。水中から1本の腕が出て剣を受け止め、沈んで行く。
『ヴォルスンガ・サガ』11~12 ヴァイキング達との戦闘の最中に、シグムンド王の前に灰色マントの片目男(オーディン)があらわれ、槍でシグムンドの剣を折る。シグムンドは倒れる。彼は、「折れた剣で新たな名剣が作られ、息子のシグルズがそれを帯びて偉業をなすであろう」と言い残して、死ぬ。
『古事記』中巻 ヤマトタケルは、尾張の国造の娘ミヤズヒメと結婚し、彼女のもとに草なぎの剣を置いたまま、伊吹山の神を撃ちに行く。しかし彼は大氷雨に打たれ、病み疲れて、「おとめの床の辺にわが置きしつるぎの大刀その大刀はや」と歌い、息絶える。
『ニーベルングの指環』(ワーグナー)「ワルキューレ」 ジークムントは、大神ヴォータンから得た剣「ノートゥング」を手に、フンディングとの決闘に臨む。しかしヴォータンはフンディングを勝利させることを決め、決闘の最中にジークムントの前に現れて、槍でジークムントの剣を砕く。剣を失ったジークムントは、フンディングの槍で突き殺される。
『平家物語』巻5「物怪之沙汰」 治承4年(1180)6月に福原に遷都して以来、平家の人々は夢見も悪く、怪異が続いた。平清盛は、かつて厳島大明神より賜った銀の蛭巻の小長刀(*→〔夢で得た物〕1の巻3「大塔建立」)を枕元から離さなかったが、ある夜、その刀が消え失せてしまった〔*まもなく源頼朝が挙兵し、翌治承5年閏2月に清盛は死ぬ〕。
『曽我物語』巻8「箱根にて暇乞の事」 源頼光が名工に作らせた剣は、刃風で草紙3帖・紙数70枚を切った。剣は頼信・頼義・義家・為義の手に伝えられ、剣を抜くと周囲の虫の羽が切れ落ちる、鞘から抜け出て大地1丈の底へ入り大蛇を切る、鬼女宇治の橋姫の左腕を切り落とす、長剣と切り合いその剣先6寸を切り落とす、などのことがあった。後、義朝・義経へと伝わり箱根権現へ奉納され、仇討ちに立つ曽我五郎がこの剣を得た。
『太平記』巻13「干将莫耶が事」 干将とその妻莫耶が、鉄丸を打ち鍛えて雌雄の2剣を作った。干将は楚王に殺され、その後、莫耶は男児・眉間尺を産んだ。眉間尺は、雌剣の鋒(きっさき)3寸を食い切って口中に含み、父の仇・楚王に吐きかけ、楚王の首を切り落とした。この3寸の剣は、燕の太子丹の所有となり、秦の始皇帝暗殺計画の折、荊軻が用いた「匕首(ひしゅ)の剣」が、すなわちこれである。匕首の剣は自ら飛んで始皇帝を追い、直径6尺の胴柱を半分まで切って、3つに折れて失せた→〔龍〕2c。
*ケネディを撃った銃弾は、かつてリンカーンを殺した銃弾だった→〔弾丸〕4の『博物館』(ボルヘス)「J・F・Kを悼みて」。
『太平記』巻23「大森彦七が事」 悪七兵衛景清が壇の浦で落とした刀を、江豚(いるか)が呑みこむ。江豚は讃岐の宇多津の沖で死に、刀は海底に沈んで百余年を経て後、漁師の網に引かれて大森彦七の手に入る。
『日本書紀』巻6〔第11代〕垂仁天皇88年(A.D.59)7月10日 天日槍が来朝した時持って来た数々の神宝を、曾孫清彦が垂仁天皇に献上し、神宝は神府に納められた。ところが、神府を開くと、出石と名づけられた刀子だけがなくなっていた。天皇が清彦に問うと、清彦は「昨夕、刀子が我が家へ来たが、今朝失せました」と答えた。後、刀子は自然に淡路島へ到り、島人は神だと思って刀子のために祠を立てた。
『アムレード』(北欧の古伝説) 王子アムレードが、釘を打ち込んで抜けなくした剣を用意して、父の敵フェンゲ王の寝込みを襲う。アムレードはフェンゲ王の剣を取り、フェンゲ王はそばに掛けてあったアムレードの剣をつかむが、抜くことができず、たちまち殺される〔*『ハムレット』(シェイクスピア)の原形〕。
『古事記』中巻 ヤマトタケルが真剣に似せた木刀を用意して、イヅモタケルとともに河で水浴する。ヤマトタケルが先に水から上がり、イヅモタケルの刀を身につけて、「太刀の交換をしよう」と言う。イヅモタケルがヤマトタケルの太刀を手にすると、ヤマトタケルは「いざ、太刀合わせをしよう」と挑む。イヅモタケルは太刀を抜こうとするが、木刀ゆえ抜くことができず、ヤマトタケルに斬り殺されてしまった。
『日本書紀』巻5〔第10代〕崇神天皇60年(B.C.38)7月 兄出雲振根(いづものふるね)の留守中に、弟飯入根(いひいりね)が、国の神宝を無断で朝廷に献上してしまった。兄は立腹し、真剣に似せた木刀を用意して、弟を水浴に誘う。兄が先に水から出て、弟の刀を身につける。弟は驚いて兄の木刀を取り、2人は刀で撃ち合う。弟は木刀ゆえ抜くことができず、兄に斬り殺された。
★5b.毒剣と普通の剣とが入れ替わる。
『ハムレット』(シェイクスピア)第5幕 ハムレットとレアティーズが剣の試合をする。レアティーズの剣先には毒が塗ってあり、彼はそれでハムレットに傷を負わせる。闘ううちに、2人は剣を取り落とし、それぞれ相手の剣を拾って試合を続ける。そのためレアティーズも毒剣で傷を負う。
★6.切れぬ剣。
『西鶴諸国ばなし』巻2-7「神鳴りの病中」 老父が鈍刀を家宝にしていた。彼は昔、田の水争いの時、隣里の男に切りつけたが、相手は薄皮もむけなかったので、事件にならずにすみ、危うい命が助かった。彼は、刀が切れなかったことを喜び、命の親であるとして、「自分1代の家の宝物」と言った。
『試し斬り』(落語) 田舎侍が安物の刀を買って、吾妻橋を渡る。非人がこもをかぶって寝ているので、一刀のもとに斬り捨てて旅宿へ帰り、「良く切れる刀だ」と朋輩に自慢する。翌晩、朋輩もその刀を借りて吾妻橋へ行き、寝ている非人を斬る。「良い切れ味だ」と満足して立ち去ろうとすると、非人が飛び起きて、「誰だ。毎晩おれを殴る奴は」〔*→〔身投げ〕6の『楽牽頭(がくたいこ)』「身投げ」と似た印象のオチである〕。
『広異記』10「破山の剣」 某士人が畑から掘り出した剣を、西域人が「百万で買おう」と約束する。士人は「そんな値打ちがあるものか」と笑い、剣先を何気なく庭石に向けると、石は真っ二つになる。これは「破山の剣」といって、ただ1度だけ使える剣であり、西域人はこの剣で宝の山を切り開くつもりだった。西域人は落胆しつつ、剣を10貫で買った。
★8.自ら動く剣。
『日本書紀』巻7〔第12代〕景行天皇40年(A.D.110)是歳 ヤマトタケルが駿河の野で狩りをした時、土地の賊が野に火をつけた。王(みこ=ヤマトタケル)は燧(ひうち)で火を起こし、迎え火をつけて難を逃れた。一説に、王が腰に差していた剣「叢雲(もらくも=天叢雲剣)」が、おのずから鞘を抜け出て、王の傍らの草を薙ぎ払った。それで、その剣を「草薙」と名づけた。
*にせの剣→〔にせもの〕4。
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