三省堂 大辞林 |
日本語活用形辞書 |
物語要素事典 |
すりかえ
★1.金と石のすりかえ。
『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)2編上~下「三島」 三島の宿で、弥次郎兵衛が指をすっぽんに喰いつかれて騒いでいる間に、ごまのはえ十吉が胴巻の金を盗み、石ころを紙に包んだものとすりかえる。金をなくした弥次・喜多二人は、所持品を少し売って一時をしのぎ、静岡の知り合いを訪ねて金を用立ててもらう。
『椀久末松山』上 椀久が、為替の金五十両を石瓦とすりかえて父久右衛門に渡す。久右衛門は財布の上から手さぐりして金でないことを知るが、だまって受け取り、翌日椀久が豪遊している座敷に乗りこんで、人々の前でそのことを明かす。
★2.手紙のすりかえ。
『盗まれた手紙』(ポオ) 身分ある夫人が愛人からの手紙を読んでいる時、夫が入ってきたので、手紙を隠そうとテーブルに置く。大臣がそれを他の手紙とすりかえて持ち去り、夫人を脅迫する。探偵デュパンが、その手紙を、自分で作ったイミテーションの手紙とすりかえて取り戻し、夫人を救う。
★3.剣のすりかえ。
『伊勢音頭恋寝刃』「油屋」「奥庭」 福岡貢が名刀青江下坂を持って油屋に登楼する。徳島岩次が自分の刀と下坂の刀身とをすりかえる。それを見た料理人喜助が、間違えたふりをして岩次の刀(中身は下坂)を貢に渡して帰すが、貢は別の刀と取り違えたと思って油屋に戻り、遊女たちや岩次一味を次々に斬る。
『長町女腹切』(近松門左衛門) 女郎お花を請け出そうとする刀屋職人半七は、叔母から預かった刀を安物とすりかえ、二十両の金を作る。しかし、そのため刀すりかえの嫌疑が叔母夫婦にかかり、叔母はすべての責めを一身に負って切腹する。
『成上り』(狂言) 太郎冠者が、主の太刀を持ったまま眠る。すっぱが太刀を盗み取り、代わりに杖竹を太郎冠者に持たせておく。
『南総里見八犬伝』第3輯巻之2第24回 大塚蟇六は浪人・網乾左母二郎に依頼して、犬塚信乃の所持する足利家の宝刀村雨を、別の刀とすりかえさせる。ところが左母二郎は村雨を自分のものとし、蟇六にはまた他の刀を渡す。蟇六はそれを本物の村雨と思って陣代・簸上宮六に献上し、斬殺される。
『平治物語』下「頼朝生捕らるる事付けたり夜叉御前の事」 清盛が源氏重代の名剣髭切を求めた時、奥波賀の長者大炊は別の剣を髭切と称して献上する。清盛が頼朝に「たしかに髭切か」と尋ね合わせると、頼朝も「髭切にて候」と欺く。
★4.平中説話には、香を排泄物にすりかえる話と、逆に、排泄物を香にすりかえる話の両方がある。どちらか一方の話がまずあって、それを変形させてもう一方の話が出来上がったのであろう。
『古本説話集』上-19 平中は、良い香りのする丁子を口に含んで、女を口説いていた。彼の妻がこれを憎み、畳紙の中の丁子を鼠の糞とすりかえた。女のもとから帰った平中は心地悪し気で、唾を吐き、臥した。
『今昔物語集』巻30-1 平中は、本院の侍従の排泄物を見ることによって、彼女への恋情を断ち切ろうと思い、彼女の汚物の入った筥を奪う。本院の侍従は事前にそれを察知し、排泄物の代わりに香を入れておいた。平中は、筥の中身を口に入れ、それが丁子の煮汁と黒方であることを知る。やがて平中は病気になって死んだ〔*『好色』(芥川龍之介)の原話〕。
★5.水と墨とのすりかえ。
『古本説話集』上-19 平中は水を入れた硯瓶を隠し持ち、水で眼をぬらしつつ方々の女を口説いていた。ある時平中の妻が水の代わりに墨を入れておいたので、平中の顔も袖も真っ黒になった。
『墨塗』(狂言) 在京の大名が故郷へ帰ることになり、愛人の女に別れを告げる。女は茶碗の水で目をぬらし、大名との別れを悲しむふりをする。それを見た太郎冠者が、茶碗の水を墨とすりかえたので、女の顔は真っ黒になる。女は怒り狂い、大名や太郎冠者の顔にも墨を塗りつける。
★6.酒と毒のすりかえ。毒と酒のすりかえ。
『僧正殺人事件』(ヴァン・ダイン) 老教授ディラードは連続殺人の罪を養子のアーネッソンに着せ、しかも最後にアーネッソンが服毒自殺したように見せるため、彼のワイングラスに青酸を入れる。探偵ファイロ・ヴァンスが、アーネッソンのグラスとディラードのグラスをすりかえ、ディラードは自分が用意した青酸を飲んで死ぬ〔*→〔自縄自縛〕3の、自らの用意した殺人具にかかって死ぬ物語の一種〕。
『魔術師』(江戸川乱歩)「八対一」 殺人鬼・奥村源造は、明智小五郎に追いつめられ、「もはや、これまでだ。生き恥をさらしたくない」と考え、かねて用意の毒薬の瓶を飲みほす。しかし明智が中身をシャンパンと入れ替えておいたので、源造は死ぬことができない〔*やむなく源造は、舌を噛み切る〕。
★7.文書のすりかえ。
『氷点』(三浦綾子)「答辞」 陽子が、中学校の卒業式で総代として答辞を読む。陽子を殺人犯の子と思う母夏枝は、陽子が奉書紙に清書した答辞を白紙とすりかえる。陽子は式場で白紙を見て驚くが、父兄や来賓に、答辞が白紙になっていたことを告げて詫び、自分の言葉で答辞を述べる。
『水鏡』下巻「光仁天皇」 称徳帝の没後、天武帝の孫宰相大市が位を継ぐことになった。ところが藤原百川達が宣命使を語らって、宰相大市即位の宣命を巻き隠し、ひそかに作っておいた天智帝の孫白壁王(光仁帝)を太子と定める由の宣命を、代わりに読ませた。
『怪談牡丹燈籠』(三遊亭円朝)12 萩原新三郎がお露の霊を退けるために身につけていた海音如来像を、隣家の伴蔵が瓦の不動尊像とすりかえる。そのため新三郎は命を失う。
『鏡山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)』「奥殿草履打」 中老尾上が預かる蒔絵の箱の中の蘭奢待を、局岩藤が草履の片方とすりかえる。その草履には岩藤の焼き印があり、さらに、もう片方の岩藤の草履が尾上の部屋から発見されるので、尾上が岩藤の草履を盗んで蘭奢待と取り替えた、ということになり、岩藤は尾上を草履で打つ→〔仇討ち〕6。
『半七捕物帖』(岡本綺堂)「一つ目小僧」 鳥屋喜右衛門が十五両もする高価な鶉の注文を受け、夜、武家屋敷へ鶉を届ける。一室で待たされていると、一つ目小僧が現れたので喜右衛門は気絶する。一つ目小僧は、片目の按摩少年が変装したものであり、喜右衛門が気を失っている間に、悪人たちが十五両の鶉を安物の駄鶉とすりかえる→〔化け物屋敷〕。
『義経千本桜』3段目「木の実」 若葉内侍らが茶店で休んでいる時、いがみの権太が自分の風呂敷包みと若葉内侍らの包みをすりかえて持ち去り、すぐ戻って来て「包みを間違えた」と言う。権太は自分の包みを受け取って調べ「二十両がなくなっている」と言いがかりをつける。
すりかえに関係した商品