夢で得た物
『怪談牡丹灯籠』(三遊亭円朝)4 萩原新三郎は夢でお露と枕をかわし、「これを私と思え」と言って香箱の蓋を手渡されるが、目覚めるとそれが現実にあった。
『雁の草子』(御伽草子) 雁の化身の男と契った女が(*→〔鳥〕4)、ある夜の夢で、「空を飛ぶ雁が、枕元に手紙を置いて行った」と見た。目覚めると現実に手紙があり、「私は故郷へ帰る途中、狩人の矢で射殺されたので、もう逢えない。どうか御世(ごせ)を弔ってほしい」と書いてあった。女は嘆いて尼となり、仏道修行して往生を遂げた。
『太平広記』巻282所引『異聞録』 ケイ鳳がある日昼寝をしていると、夢に美人が現れて巻物を手に吟詠する。巻物にはその美人の作った詩が何編か書かれており、鳳は美人の許しを得て冒頭の1編『春陽曲』を筆写する。目覚めて後、懐から書き写した詩が出てくる。
『平家物語』巻3「大塔建立」 平清盛は安芸守在任中に、厳島を修理した。修理を終え、厳島に通夜した折の夢に、「宝殿から天童が出て『この剣をもって天下を鎮め、朝家の御守りたれ』と告げ、銀の蛭巻をした小長刀を授ける」と見た。目覚めると枕元にその刀があった→〔剣〕3。
『発心集』巻2-7 相真は、暹俊から由緒ある三衣の袈裟のうちの一衣を譲り受け、臨終時の遺言によって袈裟とともに埋葬される。後、暹俊の夢に亡き相真が現れ「袈裟を返す」と告げる。暹俊が夢覚めて三衣の箱を開けると、袈裟があった。
『松浦宮物語』巻2 弁の少将は神兵の助けを得て、宇文会率いる敵軍を打ち破る。夜、木の下に露営した少将の夢に神が現れ、甲冑・武器・馬・鞍を授けられる、と見て目覚めると、それらが目の前に置かれていた。
*夢で幣(ぬさ)を授かる→〔道しるべ〕7の『椿説弓張月』後篇巻之5第28回~巻之6第30回。
★2.夢の中で見たもの・得たものと類似のものが、現実にある。
『一千一秒物語』(稲垣足穂)「赤鉛筆の由来」 昨夜、「自分」は夢に、赤いホーキ星が煙突や屋根をかすめて通ってきて、物干場の竿にひっかって落ちるのを見た。今朝起きて調べてみると、この赤いコッピーエンピツが落ちていたのである。
『入鹿』(幸若舞) 鎌足は春日の宮に参籠して、逆臣入鹿誅殺を祈願する。鎌足が少しまどろむと、夢ともなく現(うつつ)ともなく、葵の榊葉1房が直衣の袖に落ちかかる。目覚めてあたりを見ると、榊の細杖が1本あった。鎌足はこの杖をつき、盲目になったふりをして、入鹿を油断させる→〔盲目〕7。
『とはずがたり』(後深草院二条)巻5 48歳になった二条は熊野に参詣し、那智山にこもった。夢で、前年崩御された後深草院の霊と対面し、「熊野の神木である梛(なぎ)の2枝を賜る」と見て、目覚めると、檜の木の骨の白扇が1本あった。二条は「夢覚むる枕に残る有明に涙ともなふ滝の音かな」と詠み、扇を後深草院の形見と思って、帰京した。
『平家物語』巻1「願立」 山門で後二条関白師通を呪咀した夜、ある人が、「八王子権現から鏑矢の声発し、王城をさして鳴り行く」との夢を見る。翌朝、関白邸の格子には、露にぬれた樒1枝が立っていた。
『大和物語』第147段 旅人が塚のほとりで眠る。血まみれの男が来て「敵に攻められている」と言い、刀を請う。目覚めた旅人は、「夢を見たのだ」と思うが、実際に刀を貸していたのだった。翌朝見ると、塚のもとに血が流れ、刀にも血がついていた。
『好色一代男』巻6「心中箱」 世之介の愛人だった藤浪太夫は、某旦那に身請けされたが、彼女は今でも夢や幻、時には現(うつつ)に、世之介の前にあらわれた。昨夜、藤浪は、「これを羽織にして貴方に着せたら素晴らしいでしょう」と言い、新しい縞縮緬を置いて帰った。夢のはずなのに、世之介が目覚めると現実に縞縮緬があった。これを聞いた人が藤浪を訪ねると、彼女は「縞縮緬がなくなった」と言って捜していた。
『剪燈新話』巻2「渭塘奇遇記」 金陵の王青年は、渭塘で一目見た娘に恋し、毎夜のように娘と逢う夢を見る。ある夜の夢で、娘が王青年に指輪を贈り、王青年は返礼に娘に扇の下げ飾りを贈る。王青年が目覚めるとその指輪をはめており、扇の下げ飾りはなくなっていた。
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