ゆめ‐おち【夢落ち】
夢オチ
★1.長い時間にわたる経験が、実は短時間の夢だったことが、物語の最後にわかる。
『隠れ里』(御伽草子) 中秋の名月の夜、木播の野辺で鼠の隠れ里を見つけ、穴の中に入る。折しも、恵比寿に召集された魚貝軍と大黒天に召集された鼠軍との間に戦争が始まろうとしていたが、布袋和尚が仲裁に入り、恵比寿・大黒が布袋の宿所で和睦の宴をする、と見て目覚めればすべては夢であった。
『金々先生栄花夢』(恋川春町) 金村屋金兵衛は金儲けをしようと江戸へ出かけ、目黒不動前の粟餅屋で居眠りをする。そこへ迎えが来て、彼は富商和泉屋の養子となる。彼は派手な遊びをして「金々先生」ともてはやされ、30年間の栄華の暮らしのあげく、家産を傾けて追放される。それは、粟餅ができあがるまでの僅かの時間に見た夢にすぎなかった〔*原拠は『枕中記』(唐・沈既済)→〔夢オチ〕5〕。
『沙石集』巻1-9 若い僧が、上総から熊野詣でに来た娘を見そめる。僧は、参詣を終えて帰る娘を追いかけ、船を待つ間に夢を見る。僧と娘は上総で結婚し、子供も2~3人生まれる。やがて長男が13歳になり、元服のため船で鎌倉へ向かう。しかし長男は、誤って海に落ちてしまう。皆あわて騒ぐうちに、僧の目が覚める。13年の間のことは、すべて片時の夢であった。
『南柯大守伝』(唐・李公佐) 淳于汾が、家の南にある槐の木の下で酔って寝ていると、槐安国王の使者が彼を連れに来る。大槐安国へ行って王の婿となり、南柯郡の大守に任ぜられて治めること20年の後、家に送り帰される、と見て淳于汾は目覚めた。槐の木の下を掘ると、大きな穴があり蟻の国があった。
『元のもくあみ』(仮名草子) 京の西山に住む貧僧・木阿弥(もくあみ)が、志を立て江戸へ下る。芝居見物の帰りに大金を拾い、新吉原へ乗りこんで高尾太夫と床入り、というところで目覚め、見まわせばもとの京の貧家だった。「もとのもくあみ」とはここから出た諺である。
『不眠症』(星新一『ボッコちゃん』) ケイ氏は事故で頭を打ってから、まったく眠れなくなった。昼も夜も働けて収入は倍増するが、ケイ氏は「何とかして眠りたい」と願い、医者に薬を注射してもらう。しかし、なぜか、あいかわらず目覚めている。医者は、「あなたは事故以来眠り続けで、高価な薬を用いて今ようやく目覚めたのだ」と説明する。薬代は高く、ケイ氏は当分、昼も夜も眠らず働かねばならなかった。
*眠れない、という夢を見ている夢遊病者→〔不眠〕1の『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)「ねむれぬ夜に砂男」。
★3.夢オチの提案。
『新生』(島崎藤村)第2巻115 小説家岸本捨吉は、姪節子との過ちを告白する長編小説を、新聞に連載し始める(*→〔伯父(叔父)〕1a)。世間の人々は驚き、親類縁者たちは怒る。ある読者は、あんなふうに書かれては節子がかわいそうだと思い、「何とかならないものだろうか。『夢だった』とでもするわけにはいかないものか」と言った。
★4.二十世紀中頃になっても、正攻法の夢オチの物語が作られることがある。
『飾窓の女』(ラング) 大学の准教授ウォンリーは、クラブで夜の食事をした帰途、美しい女に誘われて彼女のアパートへ行く。そこへ女の情夫がやって来て争いとなり、ウォンリーは鋏で情夫を刺し殺す。ウォンリーは死体を森に捨てるが、殺人を察知した男が現われて、大金を恐喝する。切羽詰ったウォンリーは、自殺しようと毒を飲む。意識の薄れ行くウォンリーを、クラブのボーイがゆり起こす。ウォンリーは酔って悪夢を見ていたのだった。
『乞食学生』(太宰治) 4月半ば。32歳の小説家である「私」は、玉川上水を泳ぐ少年と出会う。彼は佐伯五一郎という高校生だった。「私」は彼と議論しつつ、彼の友人・熊本を下宿から呼び出し、3人で街へ出て、喧嘩し仲直りして、ビイルで乾杯する。「私」は、失った青春を取り戻し得たと思い、大声で歌っているところで目が覚めた。目の前の少年に「佐伯五一郎だろう?」と問うと、「違う」と言われ、友人・熊本の存在も否定された。
★5.若者が一生のことを夢に見て、「目覚めたらもとの若者だった」という物語と、「目覚めたら老人になっていた」という物語。
『枕中記』(唐・沈既済) 青年盧生が青磁の枕(*→〔枕〕2)に頭を乗せた時、茶店の主人・呂翁は黍の飯を炊いていた。枕の両端の穴が大きくなり、盧生は穴の中へ入って50年の栄枯盛衰を経験し、老齢に達して病死する。ふと目覚めると、もとの茶店であり、黍の飯はまだ炊き上がっておらず、盧生は青年のままだった。盧生は、困窮と栄達の運命、死と生の実情を悟り、呂翁に礼を述べて店を出て行った。
『枕』(星新一『これからの出来事』) 猟師の少年が「偉い人になろう」と決意して、山から出て来る。麓の一軒家で、少年はセトモノの枕を借りて眠り、長い夢を見る。彼は兵士となって手柄を立て、船を買って貿易に従事し、富と地位を得る。しかし台風で多くの船を失い、貧しく憐れな生活におちいってしまった。夢から覚めた彼は、「栄達はむなしい。人生をやりなおそう」と考えて山へ帰る。途中、川で水を飲もうとすると、先の短い老人の顔が映っていた。
夢オチ
夢オチ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 05:58 UTC 版)
波乱に満ちたストーリー展開を見せ、「それは夢だった」という結末で終わること。収拾がつかない場合や、話を一気に終わらせる場合に用いられることもある。映画や漫画などでは、安易に用いると手を抜いていると思われる手法である。登場人物が途中で睡眠または気絶、もしくは意識を失うほどのショックを受ける、といった伏線があることが多い。「ドラえもんの最終回#のび太植物人間説」も参照
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