郵便
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日本
日本では、信書の送達について「民間事業者による信書の送達に関する法律」(通称・信書便法)の条件を満たせば日本郵便以外の事業者が参入することもでき、高付加価値型の郵便サービスである特定信書便については404事業者(2013年7月5日現在)[13]が参入している。英語で言うpostal serviceつまり一般概念としての"郵便"を民間企業も行うようになっている。
なお、"全国全面参入型"の一般信書便には参入する事業者がなく、もっぱら日本郵便が行っている。
なお、過去のいきさつもあり、実質的にpostal service(つまり郵便)を行っているにもかかわらず、日本で「郵便」と(商標的に)表記できるのは法律上日本郵便のみ、となっている。
競合サービスとして民間企業(運輸会社各社等)のメール便(宅配便)がある。
日本の郵便の歴史
日本において通信制度が現れたのは、伝馬などを利用して公用通信に供した「大化の駅制」とされる。この駅制は盛衰を続け、鎌倉時代に至って飛脚の出現となり、戦国時代には大名の書状送付に飛脚が利用されるなどを経て、徳川時代(江戸時代)に幕府の整備により武家や町人が利用できる飛脚屋・飛脚問屋などの制度が発達した。その後明治時代に入り、飛脚は郵便に移行してゆく。
1858年の日米修好通商条約により、締結国が開港地に領事館を設置した。各国は公文書を蒸気船や軍艦に運搬させたが、自国民の手紙も便乗させた。いわゆる領事館郵便である。やがて中には業容を拡大し、独立の局舎を設けて専任の従業員を抱えたものもある。そのような在日外国郵便局を、英米仏三国が横浜・兵庫・長崎にもっていた。在日局は各国の郵便ルールに従っていた。切手販売、手紙引受、押印という基本的な機能は十分に果した。横浜の居留地ではサザーランド切手が使われた。
1870年(明治3年)5月、駅逓権正となった前島密は、太政官に郵便制度の創設を建議した。しかし、同年6月に前島が上野大蔵大丞に差添し渡英したことから、郵便制度創設の建議は、後任の駅逓権正・杉浦譲と各地の官吏に引き継がれた。
1871年(明治4年)1月24日に「書状ヲ出ス人ノ心得」及び「郵便賃銭切手高並代銭表」、「郵便規則表」等、郵便に関する一連の太政官布告が公布され、4月20日(旧暦3月1日)、東京 - 京都 - 大阪間に現行の制度の礎となる郵便制度が確立され、東京・京都・大阪に最初の郵便役所が創設された。布告に用いられた「郵便」の名称は、前島の案に準じたものであった。
前島密により建議され、創設された近代日本の郵便制度においては、これまで東京 - 京都 - 大阪間の政府の手紙等の配達に毎年1500両支出していたのを、政府の手紙配達に民間の手紙配達を併せて配達し利益を出すしくみが提案されていた。そのしくみは、東京 - 京都 - 大阪間62箇所の郵便役所・郵便取扱所で官吏が引き受け・管理を行い、配送時間は厳守された。郵便制度の創設後、従来の飛脚が東京 - 大阪間144時間で書状を配送していたものを、78時間に短縮した。
翌1872年(明治5年)8月に前島が英国より帰京すると、郵便役所はさらに横浜、神戸、長崎、函館、新潟と全国展開が図られ、江戸時代に地域のまとめ役だった名主に自宅を郵便取扱所とする旨を要請、1873年(明治6年)に全国約1100箇所の名主が郵便取扱所を快諾したことから、郵便制度は全国に拡大した。
駅逓寮は国際郵便の整備も並行させた。1872年、在日局にならい手続きを明文化した。内容だが、在日局に着いた書信のうち、横浜宛は在日局に配達を任せた。横浜以外は日本側が配達した。横浜から先の国内料金は受取人払いとし、徴収額は国内料金にそろえた。逆に海外宛の手紙は二重封筒を使った。国内料金と外国料金を足した額の日本切手を上封筒に貼って駅逓寮に送り、駅逓寮が下封筒に各国の切手を貼って在日局に託すというリレーが行われた。万国郵便連合がなかった時分、各国と条約を結ぶ必要があった。1873年にワシントンで締結された日米郵便交換条約は、それらで最初のものである。日米の郵便船はそれぞれ相手国の郵便物を無償で運ぶという条文があるものの、日本郵船の設立は1885年を待たなければならなかった。
2000年、中央省庁再編前までは、携帯電話でようやくEメールを送受信できるようになったところで、対面以外のコミュニケーションは、固定および携帯電話による音声通話か、アナログの「ハガキ」「手紙」の送付が主な手段であった。当時の郵便局には、職員に向けた「郵便の使命」と題して、次の文章が掲示されていた。「愛と思いやりを届け、別れた友のかけ橋となり、わびしい心をいやし、遠く離れた家族をつなぎ、我らの日々を豊かにするニュースと知識を運び、商業と産業の助けとなり、世界の人々の間に互いの理解を深め、平和や親善を促進する」
- 1871年 - 郵便に関わる太政官布告が交付され、郵便制度が施行。最初の郵便切手が発行された[14]。
- 1873年 - 日米郵便交換条約調印[14]。
- 1875年 - 外国郵便の取扱開始、郵便貯金・郵便為替の取扱施行[14][15]。1月、郵便役所をすべて郵便局と改称し、1等~5等に区別した[16]。
- 1876年 - 上海と釜山浦に在外郵便局を開設[14]。
- 1877年 - 万国郵便連合(UPU)に加盟。ただし在日局の撤退はイギリスが1879年、フランスが1880年[14]。
- 1885年 - 逓信省創設。国際郵便を正式にあつかいはじめる[14]。
- 1892年 - 小包郵便の取扱開始[14]。
- 1916年 - 簡易保険創業[14]。
- 1921年 - 国内航空郵便開始[14]。
- 1943年 - 逓信省を廃止、通信院を運輸通信省の外局として設置。
- 1945年 - 運輸通信省の廃止にともない通信院を、逓信院に改めて内閣に移管。
- 1946年 - 逓信省再発足。
- 1949年 - 逓信省を郵政省と電気通信省に分割。
- 1966年 - 郵便法大幅改正[17][18]。第五種郵便物[注 3]を廃止し、第一種郵便物に統合[19]。簡易てがみ[注 4]を郵便書簡に変更[20]。書籍小包・簡易書留の創設など[19]。
- 1968年 - 郵便番号(3桁又は5桁)実施。普通扱いのはがきや手紙の日曜配達を廃止[21]。
- 1970年 - 角型ポスト登場。
- 1979年 - 毎月23日をふみの日として定める、電話自動化が完了し郵便局での電話交換業務が終了。
- 1983年 - ふるさと小包誕生。
- 1986年 - 鉄道輸送廃止。
- 1989年 - ふみカード(プリペイドカード)発行、カタログ小包制度新設。
- 1998年 - 郵便番号(7桁)実施。
- 2001年 - 中央省庁再編に伴い、郵政省は自治省、総務庁とともに 総務省へ、事業部門は 郵政事業庁(総務省外局)へ。
- 2003年 - 日本郵政公社へ移行。
- 2007年 - 郵政事業民営化により日本郵政グループへ移行し、郵便は郵便事業(初代日本郵便)が手掛ける業務となる。
- 2012年 - 郵政事業民営化見直しに伴い、日本郵便が手掛ける業務となる(郵便事業が郵便局に吸収合併されたため)。
- 2021年 - 10月から普通扱いとする郵便物・ゆうメールの土曜日配達を休止。これ以降段階的に送達日数を1日繰り下げ[22]。
日本の郵便物
日本郵便が取り扱うその他の郵便サービス
日本の郵便関連
注釈
出典
- ^ “郵便(ゆうびん)の意味”. goo国語辞書. 2019年11月24日閲覧。
- ^ a b 広辞苑第六版「郵便」
- ^ a b c d e f g h 星名定雄 2006 第7章 中世ヨーロッパの成立と飛脚の台頭
- ^ 星名定雄 2006, pp. 227–228 第8章
- ^ 阿部謹也『中世の窓から』朝日新聞社 1981年、164-165頁。
- ^ 阿部謹也『中世の窓から』朝日新聞社 1981年、168-169頁。
- ^ 北岡敬『そこが知りたい【事始め】の物語』雄鶏社、1995年4月。ISBN 4-277-88095-9。
- ^ Leopold Joseph, The Evolution of German Banking, London, Charles & Edwin Layton, 1913, chapter 3.
- ^ Isabella Löhr, Roland Wenzlhuemer, The Nation State and Beyond: Governing Globalization Processes in the Nineteenth and Early Twentieth Centuries, Springer Science & Business Media, 2012, p.56.
- ^ Schweizerische Nationalbank, Archiv Bern, Abmachungen mit der BIZ, Archivschachtel Nr.112.
- ^ McKittrick Collection, Movements of Gold Sight Accounts for Postal Transactions 1941-44 by Roger Auboin vom 1.10.44.
- ^ タイムズ 1980年6月18日
- ^ “信書便事業者一覧”. 総務省 (2013年). 2013年8月15日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i 逓信省 1921.
- ^ 郵便為替規則(大政官府告書明治7年第90号)、明治八年(1875年)一月二日ヨリ駅逓寮二於テ郵便為替規則ノ通リ三拾圓以下少額ノ為替方法施行候
- ^ 逓信事業史 2 逓信省編
- ^ “郵便法の一部を改正する法律(昭和41年6月8日法律第81号)”. 国立国会図書館 日本法令索引. 2021年2月14日閲覧。
- ^ “郵便法の一部を改正する法律・御署名原本”. 国立公文書館 デジタルアーカイブ. 2021年2月14日閲覧。
- ^ a b “昭和48年版 通信白書「郵便物の種類体系と制度の合理化」”. 郵政省 (1974年3月). 2020年3月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年5月24日閲覧。
- ^ 堀内恵彦 (1967年5月25日). “地質ニュース 1967年5月号 No.153” (pdf). 切手を集める人のために(8). 工業技術院 地質調査所. p. 46. 2021年2月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年2月20日閲覧。
- ^ “はがきや手紙などの普通郵便 きょうから土曜日の配達取りやめ”. 日本放送協会(NHK) (2021年10月2日). 2021年10月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年10月2日閲覧。
- ^ “2021年10月から郵便物(手紙・はがき)・ゆうメールのサービスを一部変更します。”. 日本郵便. 2021年8月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年10月2日閲覧。
- ^ Daniel R. Headrick, When Information Came of Age: Technologies of Knowledge in the Age of Reason and Revolution, 1700-1850, Oxford University Press, 2000, chapter.6. Communicating Information - Postal and Telegraphic Systems
- ^ 山田伸二『大恐慌に学べ』東京出版、1996年9月、29頁。ISBN 4-924-64459-5。
- ^ 史上初の郵便スト ウォール街では飛脚便『朝日新聞』1970年(昭和45年)3月20日夕刊 3版 11面
- ^ U.S.P.Sのウェブサイト
- ^ dpwn.de
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