竜切手とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > 竜切手の意味・解説 

竜切手

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/02 04:39 UTC 版)

竜切手(りゅうきって)は、日本で最も初期に発行された郵便切手1871年明治4年)旧暦3月1日に発行されたが、この日は現在の太陽暦では4月20日であるため、この日を含む一週間を現在では切手趣味週間と指定している。「竜切手」という呼称は、図案が雷紋と七宝の輪郭文様の中に向かい合った竜が描かれている[1]ことにちなんでいる。

郵便制度の発足

日本の近代郵便制度の創設者である前島密は、明治維新政府で駅逓頭の職にあり、郵便事業の創業準備を行っていた。そのため近代的制度のひとつである郵便料金前納を示すための切手を発行する必要があった。開業時に発行されたのが48、100文、200文、500文の計4種の切手[1]であった。

切手の印刷原版は、銅版彫刻技術者であった松田緑山(敦朝)が彫刻[1]し、彼の工房であった玄々堂が人力で切手の製造を請け負っていた。印刷は旧暦明治3年11月28日以降[1]に開始され、開業までに86万枚[1]が製造された。

原版を複版する近代的印刷技術が当時の日本にはなかったため、1シート40枚分の実用版を手で彫る殊に由来するがこの竜切手は手作業により額面誤印刷腕落ちおよび竜の顔の斑点、外縁の太細唐草文様のエラーもありバラエティーに富んだ切手となった。そして、正確には手作業によるエッチングを行っていた[1]。このような製造方法は1876年に凸版印刷の切手が登場するまで続けられた。この製法により作られた切手を、切手収集家は「手彫切手」と呼称[1]している。そのため、手作業ゆえに40枚それぞれに僅かな差異が存在しており、竜の爪の彫り忘れなどもあるため、バラバラにしてもシートのどの位置にあった切手かが判る。このことにより個々の切手を集めて元の板を再構築するプレーティングの対象となっている。

このような僅かな差異が多数存在することは、玄々堂からの納品の時点で判明していた可能性が高いが、玄々堂に対し手彫切手の製造を無理強いしていた事情から、修正や彫り直しの依頼などは現実的に難しかったものと思われる[2]

當時日本で銅板印刷を本業として有名なのは、ただ玄々堂松田というのが一軒あるあるだけで、是が即ち紙幣の製造人である。…(中略)澁澤栄一君が仏蘭西の郵便切手を持つて居られたので、之を玄々堂に示して其の製造方を相談したが處(ところ)が、精巧なのに驚いて、迚(とて)もできませんと言う。それで外に仕方がないから、余儀なく玄々堂を説諭したり励ましたりして、強いて依頼してこさえさせることにしました。 (郵便の父 前島密遺稿集 郵便創業談)

また竜切手は手彫切手で唯一の2色刷りであり、周囲の竜のモチーフと額面表示が別々に印刷されていた。そのため500文切手に逆刷のエラーが存在していることが知られており、1973年アメリカ合衆国で使用済が発見され、オークションにかけられた。このエラー切手は日本切手のカタログ評価額では最高の3500万円[1]が付けられている[3]

なお、近代郵便が始まった日本では、書状に切手を貼付する方法以外に書状を入れて運ぶ箱に切手を貼付する方法もあった[4]。1871年(明治4年)の大久保利通の書状箱には切手が貼付されており現存する[4]

竜文切手

竜文切手(りゅうもんきって)は、1871年4月20日に発行された日本最初の切手である[4]。印刷は薄手の和紙[5]切手の目打も裏糊[1]もなかった。またサイズが19.5mm四方の正方形であり、このサイズは日本で発行された切手の中で最も小さいものである。国名表記もなされていなかった。

この額面は通貨改革が行われていなかったため、江戸時代の通貨単位のままであった。なお48文という端数額面であるが、これは江戸期には100文以上の勘定を九六勘定とする慣習があり、100文の半額という意味[1]であったという。九六勘定は100文以上について行われ、100文切手は96文、200文切手は192文、500文切手は480文で買えたが、48文切手については額面を50文とすれば丁銭勘定となり50文支払うことになり、これに対する措置と思われる[6]

また切手の額面は距離別及び重量別の料金体系に沿ったものであり、たとえば創業当日に東京から横浜に1までの書状を差し出すには48文であり、5匁の場合には10倍の500文が必要[1]であった。

竜銭切手

竜銭切手2銭

1871年(明治4年)旧暦5月10日新貨条例制定により新通貨『圓(円)』が導入されたため、翌年の1872年(明治5年)2月に「銭」の単位に変更した竜銭切手(りゅうせんきって)が発行された。ちなみに同切手は日本初の目打付切手でもある。また後期には裏糊もつけられた。しかしながら、印刷版の準備が間に合わず、竜文切手の原版(第2版)を流用使用、額面だけを差し替えたものを製造[1]した。額面は100文を1銭、48文を5厘と改訂された。

この竜銭切手は、7月に後継の「桜切手」(印刷方法は竜切手とほぼ同じで、この切手の途中から、政府機関である紙幣寮が切手製造を行うことになった)が発行されたため、製造期間が極めて短い[1]。そのため竜切手はいずれも残存数が多くなく、カタログでの評価額も高額である。

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m 日本切手専門カタログ戦前編 2007年版「手彫切手」の項目より
  2. ^ 郵便の父 前島密遺稿集 郵便創業談』逓信協会、1936年12月15日、92-93頁https://books.google.co.jp/books/about/%E9%83%B5%E4%BE%BF%E5%89%B5%E6%A5%AD%E8%AB%87.html?id=ITFHJQLRzBcC&hl=en&redir_esc=y 
  3. ^ 製造時には少なくとも40枚あったはずだが、現存数は1枚しか確認されておらず、この評価額は目安であり、仮に現在オークションにかけられた場合の落札値というわけではない
  4. ^ a b c 特別展「ニッポンノテガミ」の開催”. 日本郵政株式会社 郵政資料館. 2020年8月18日閲覧。
  5. ^ 薄紙にしたのは使用済み切手を剥がして再利用されるのを防ぐため。門井慶喜『ゆうびんの父』幻冬舎、2024年、464頁。
  6. ^ 三上(1996), p98-99.

参考文献

関連項目

外部リンク


「竜切手」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「竜切手」の関連用語

竜切手のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



竜切手のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの竜切手 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS