展望車 電車・気動車

展望車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/04 06:14 UTC 版)

電車・気動車

路面電車での納涼車の例:
美濃電気軌道木造単車
高速電車での納涼車の例:
神戸有馬電気鉄道テン1形

太平洋戦争以前の一部地域の路面電車には、窓ガラスをなくして眺望を確保し、側面腰板を金網張りとして風通しを良くした「納涼電車」が存在した。暑い時期に乗客の涼を取ることを主眼としたもので、江ノ島電鉄等で1930年代まで運行されていた。これも一種の展望車と言える。神戸電鉄等には、高速電車でも同様な納涼車仕様の車両があった。多くは太平洋戦争中に輸送力確保のため、通常型電車に改造されて消滅した。

特別席としての「展望車」「展望席」

太平洋戦争前の日本の電車は、一般に運転台周りは開放的な構造であったが、その中でも1938年に南海電気鉄道の前身である南海鉄道が製造した貴賓車「ク1900号」は、流線型の前面形状と広い窓を備え、車内にはソファーを備えた展望構造であった。これは皇族等の高野山金剛峯寺)への参詣における利用を主眼としたものであるが、第二次世界大戦後は一般客向けの特急「こうや号」に特別車として連結され、1961年まで運用されたが、同年の特急撤退後は通常形態の通勤形電車に改造されてしまった。

東武鉄道は豪奢なサロンを備えた貴賓用の付随展望車としてトク500形客車(1930年製、製造時は木造車、戦後に鋼体化)1両を保有し、主に日光特急電車の後尾に連結して運用していたが、1957年に廃車となった。なお、東武の特急車両は1720系「DRC」および100系「スペーシア」以降の電車は前面展望を意識しない造りになっている。

「パーラーカー」

国鉄の場合、東海道本線特別急行列車「はと」「つばめ」151系により電車化する際に、従来の展望車に相当する後継車両として、以前の特別二等車を凌ぐ設備を有した大阪方先頭車のクロ151形を製造した。運転台の後にVIPや貴賓客使用を考慮した4人用の個室があり、客用扉を挟んで車体後部に位置する開放室には、左右各1列ずつの乗客が座席の向きを任意に変えられる回転式自在腰掛(リクライニングシート)が7列配置されたために定員18名。「パーラーカー」の愛称がつけられ、客車時代の一等車と同様の利用客層を前提としていたことと、二等車であっても前述したように以前存在していた特別二等車を凌ぐ設備であったため、特別二等車料金に相当する特別車両料金を要し、当時の国鉄監修時刻表による表記では従来の「展望車」記号がそのまま流用された。

12両が製造されたが、1両(クロ151-7)が事故廃車。残り11両中10両が東海道新幹線開業に伴う山陽本線特急に転用され、のちに181系化改造が施工された。しかし、山陽本線では特別車両の需要が元来少ないため利用客が皆無の日も多く、特別車両の料金を値下げしたもののほとんど効果はなかった。そのような利用者の絶対的な減少に伴い貴賓車予備となる2両(クロ181-11・12)を除き開放室を普通席への改造が施工され、クロハ181形となった。区分室はそのまま残されたものの座席指定発売においてマルスへの収容が見送られるなど利用客はほとんどおらず、晩年は乗務員の休憩室や車内販売の控室と化して荒廃状態だったという有様であった。さらにクロ・クロハ181形への改造後も山陽特急からの撤退による関東地区への転用に伴い1973年までに全車普通車化改造され、パーラーカーは消滅した。なお、東海道特急から直接上越線に転用されたクロ151-6は転用時に直接クハ181-56に改造されている。

JR発足後の特急のパノラマ型先頭車

東海旅客鉄道(JR東海)では 特急「しなの」用に投入された381系で、1988年にサロ381形を先頭車化改造したパノラマグリーン車クロ381形10番台を改造製作した。前部約1/3は展望室で、前頭部は前面展望を考慮し傾斜した構造となり、側面窓も拡大されている。後継である383系においても、長野方にパノラマグリーン車クロ383形0番台が連結されている。

気動車特急においても「ひだ」「南紀」に投入されたキハ85系の非貫通先頭車では、傾斜を付けた流線形とし、三次曲面のフロントガラスと運転台上方の天窓サンルーフ)を採用し、運転席後部を全面ガラス張りとしたうえで前面展望を確保している。

JR西日本では、1989年に設定された「スーパー雷鳥」向けの485系に吹田工場で改造されたパノラマグリーン車クロ481形2000番台を組み込んだ。同じ時期には「スーパーくろしお」「スーパーやくも」で運用された381系に同じ構造のパノラマグリーン車クロ380形を改造製作して組み込んでいる。1996年に投入されたJR西日本283系電車でも、パノラマグリーン車が採用されている。

この他、2017年に営業運転を開始した「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」は、車両先頭部にオープンデッキ型開放デッキを備えており、車両形式も「キイテ87」と気動車形式初の「テ」記号を名乗っている。

四国旅客鉄道(JR四国)が投入した2000系では、グリーン席・普通席合造車の非貫通先頭車にパノラマ構造が採用された。グリーン車ではないが、「スーパーはくと」で運用される智頭急行HOT7000系気動車の非貫通先頭車は、パノラマ構造となっている。

JR北海道が1988年に製造したジョイフルトレイン「ニセコエクスプレス」では、車体こそ平屋構造であるが、先頭車をパノラマ型として前面展望に配慮した。

JR東日本ではキハ58系改造の「グラシア」(1989年、後・「こがね」)、および485系改造の「リゾートエクスプレスゆう」(1991年)において採用した。

第三セクター鉄道では、「タンゴエクスプローラー」に運用された北近畿タンゴ鉄道KTR001形気動車で客室をハイデッカー、先頭車をパノラマ型とし展望に配慮した形となった。

屋上運転台式前面展望車(セッテベロ形・パノラマ形展望車)

イタリア国鉄のセッテベロ(写真は保存用にETR300形301の外観が再現された元・ETR250形252)
屋上運転台式前面展望車の例:小田急ロマンスカー
(左上から3100形7000形10000形50000形

運転台を屋根上に上げ、客席を車両最前面に置いて展望を確保する構造の鉄道車両は、古い例では1930年代にフランスで製作された気動車「ブガッティ・ガソリンカー」等が存在する。

しかし、この種の展望構造を採った高速列車で世界的に有名となった最初は1953年にイタリア国鉄が開発した7両編成ETR300形である。この豊かな曲面を備えた流麗な特急電車は「セッテベロ」 (Settebello) の愛称を与えられ、列車名にもこの愛称が採用された。この「セッテベロ」とは、「settebello-denari(7人の美女)」というトランプ・ゲームの役(切り札)のことである。車体にも「settebello-denari」のイラストが描かれている。1960年には同様の構造をもつ4両編成のETR250形も製造されている。これらの電車は文化映画『ベスビアス特急』で紹介されて以来、日本でも知られることとなり、名実ともにイタリア国鉄を代表する車両であった。なお、2004年時点では1編成を残して廃車されている。

日本でこの展望構造を採った電車の最初は、1961年に開発された名古屋鉄道の元祖「パノラマカー7000系である。本形式は「鉄道ファン」誌の創刊号の本誌を飾り一躍全国区で有名となった。このため日本では(セッテベロ型という言葉も通じるが)この形態を「パノラマ形」と称するのが一般的である。これに続き小田急電鉄でも小田急ロマンスカーの系統である1963年開発の3100形「NSE」でこの構造を採用した。名古屋鉄道は同様な構造を1963年製造の7500系でも採用、また小田急電鉄も1980年7000形「LSE」、1987年の10000形「HiSE」2005年50000形「VSE」も同様の構造を採用している。同社では、ETR300形同様の連接構造もともに採用され、改良を続けながら踏襲されている。2017年に製造され、2018年より営業運行を開始した70000形「GSE」では「VSE」以来13年ぶりに展望構造が採用されたが、台車は連接構造ではなく通常のボギー車となっている。

国鉄・JRにおけるセッテベロ形の展望電車は、国鉄末期の1987年に165系をジョイフルトレインとして改造した「パノラマエクスプレスアルプス」が最初である。なおこの車両は2001年に富士急行に譲渡、形式を2000形に変更の上、「フジサン特急」として運用された。続いてJR東日本で485系を改造して1990年に登場した「シルフィード→NO.DO.KA.」においても同様のセッテベロ形が採用された。

気動車ではキハ183系に例があり、1988年にJR九州が「オランダ村特急」用に製作した1000番台と1990年にJR北海道が製作した「クリスタルエクスプレス トマム & サホロ」向け5100番台がある。前者は数回の変遷を経て豊肥本線特急「あそぼーい!」に運用されているが、前面展望席は制度上・発券上も特別席(パノラマシート)扱いを受けている。後者は一般席と同じ扱いであったが、2010年に発生した特急「スーパーカムイ踏切事故を受けて座席を撤去、 立入禁止措置をとられ展望席は廃止となった。

ハイデッカー前面展望車

ハイデッカー式前面展望車の例:名鉄1030系「パノラマSuper」

セッテベロ形構造の車両は、車体強度確保や運転士の乗降、衝突対策などクリアすべき制約が多く、扱いにくいこともあり、日本では限られた鉄道で用いられたのみに終わった。

これに代わって高床式(ハイデッカー)の前面展望車両が1980年代以降に出現している。発想は観光バス等と共通したもので、運転台を通常の床面に置き、直後の客席床面を大きく嵩上げした上で、車両前面の窓ガラス面積を大きく取り、運転台の頭越しに前面眺望を確保する手法である。多くの場合は客室側面窓も大きく作られ、全方向への眺望確保を図っている。セッテベロ形よりも構造が簡単で、運用が容易であることから、電車・気動車における前面展望車両の一つの主流となっている。日本では、1984年に登場した名古屋鉄道8800系「パノラマDX」が最初である。パノラマ形展望車の代表格である7000系の後継車1000系「パノラマSuper」もハイデッカー型で製造されている。

その後は、伊豆急行2100系「リゾート21」やJRのジョイフルトレイン[注釈 2]近鉄50000系「しまかぜ」などリゾート列車への採用例が多い。

2階建車両

2階建眺望車の例:近鉄30000系電車「ビスタEX」

2階建車両は、特に2階席からの眺望に優れることから、アメリカの「ビスタドームカー」等のように「眺望車」「眺望席」という位置付けでアピールされることがある。

日本の場合、近畿日本鉄道ビスタカーについては、2階席を眺望席として位置付けており、発券上指定ができることから特別枠ではあるものの料金制度上の特別席ではない。

“制度上の特別席”という点では、瀬戸大橋線快速列車マリンライナー」に使用されるJR四国5000系電車の5100形は2階席および運転席寄り座席をグリーン席とし、1階席および連結面を普通席として「眺望の良い特別車両」として使用されている。これは運行当初より使用していたJR西日本岡山電車区所属の213系グリーン車クロ212形車両の「瀬戸大橋での眺望を楽しむ」という点を踏襲したものである。

特急「あさぎり」用に製造されたJR東海371系電車および小田急20000形電車では、パノラミックウィンドウを採用した先頭車、大型の側窓、編成中間の2階立て車両と、全体的に展望に考慮したつくりとなっている[注釈 3][注釈 4]

しかし必ずしも「2階建車両=観光列車に充当される車両」ではないため、例えば座席数の増加を主眼においたJR東日本の東京近郊区間における中距離電車に連結される2階建てグリーン車では、展望の望めない1階席が存在する等、必ずしも眺望が良いような座席配置は行っていない。これは、湘南ライナーホリデー快速に充当された215系でも同様である。

トロッコ気動車

トロッコ気動車の例:わたらせ渓谷鐵道WKT550形「トロッコわっしー号」

JR東日本のキハ48形を改造して「トロッコ列車」用とした「びゅうコースター風っこ」やキハ30形を改造した会津鉄道AT-300形、そして新造車の高千穂鉄道TR-400形(路線廃止により九州旅客鉄道に譲渡)やわたらせ渓谷鐵道WKT-550形(トロッコわっしー号)、会津鉄道AT-350形気動車が存在しており、かつての「納涼電車」の再来を思わせる車両となっている。

クルーズトレイン

TRAIN SUITE 四季島」「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」においても、編成端部の車両は展望部を有する設計となっているが、前者はEDC方式車両、気動車であり、運転台も有している。また、「瑞風」においては、展望車となった両端車がキイテ87形を称している。


注釈

  1. ^ もしこの計画が実現していた場合は密閉式のスイテ30形が東海道線特急に使用され、山陽線特急にはマイテ39形が転用されていたかもしれないともいわれている。
  2. ^ アルファコンチネンタルエクスプレス」「フラノエクスプレス」「トマムサホロエクスプレス」 「サロンエクスプレスアルカディア(後・Kenji)」「リゾートライナー」「ゆぅトピア」「ゴールデンエクスプレスアストル」「スーパーサルーンゆめじ」「リゾートサルーン・フェスタ」「エーデル丹後・鳥取・北近畿」もハイデッカー展望車であった。
  3. ^ 加えて小田急20000形はハイデッカー構造とされた。
  4. ^ 2012年をもって「あさぎり」からは撤退し、両者とも富士急行の「フジサン特急」に転用された。

出典

  1. ^ 朝日新聞』朝刊2009年1月19日1・4面
  2. ^ About Our Train”. ナパバレー・ワイントレイン. 2015年3月10日閲覧。
  3. ^ 「展望車特別急行に連結」国民新聞明治45年5月23日 『新聞集成明治編年史. 第十四卷』(国立国会図書館近代デジタルライブラリー)
  4. ^ 以上戦後の変遷は、星晃「1等展望車変遷記」(『回想の旅客車』下巻、交友社、1985年、pp.270 - 283・学研、2008年、復刻版pp.96 - 109)による。
  5. ^ 京都鉄道博物館「マイテ49形」収蔵へ:豪華展望列車 乗り納め毎日新聞』夕刊2022年10月7日(社会面)2022年10月17日閲覧





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