五十音
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/06 14:46 UTC 版)
概説
日本語では単純母音が5つしかないこと、子音それぞれとの組み合わせがほぼ完全対応であることなどが、仮名および音素を理解する手段として五十音図をわかりやすく手軽なものにしている。しかし日本語の仮名、音素が文字通り50個である訳ではない。表上では欠落したり重複したりしている文字・音素がある。また五十音図は清音のみを示すが、他に濁音・半濁音・長音・促音・撥音・拗音、などがあり、発音の総数は100以上ある。
元来、漢字の音を示す手段である反切を説明するものとして考案されたものとされるが[1]、その子音と母音を分析的に配した体系性が、後には日本語の文字を体系的に学習するのにも利用されるなど様々な用途を生んだ。
構成
わ行 | ら行 | や行 | ま行 | は行 | な行 | た行 | さ行 | か行 | あ行 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ん ン /n/ [ɴ][n][m][ŋ][ɲ] ほか鼻母音など |
わ ワ /wa/ [β̞ä] |
ら ラ /ra/ [ɺä] |
や ヤ /ya/ [jä] |
ま マ /ma/ [mä] |
は ハ /ha/ [hä] |
な ナ /na/ [nä] |
た タ /ta/ [tä] |
さ サ /sa/ [sä] |
か カ /ka/ [kä] |
あ ア /a/ [ä] |
あ段 |
ゐ ヰ /wi/ [i][注 2] |
り リ /ri/ [ɺʲi] |
𛀆() 𛄠() /yi/ [ji] |
み ミ /mi/ [mʲi] |
ひ ヒ /hi/ [çi] |
に ニ /ni/ [nʲi] |
ち チ /ci/ [t͡ɕi] |
し シ /si/ [ɕi] |
き キ /ki/ [kʲi] |
い イ /i/ [i] |
い段 | |
𛄟() 𛄢() /wu/ [β̞ɯ̹] |
る ル /ru/ [ɺɯ̹] |
ゆ ユ /yu/ [jɯ̹] |
む ム /mu/ [mɯ̹] |
ふ フ /hu/ [ɸɯ̹] |
ぬ ヌ /nu/ [nɯ̹] |
つ ツ /cu/ [t͡sɯ̹̈] |
す ス /su/ [sɯ̹̈] |
く ク /ku/ [kɯ̹] |
う ウ /u/ [ɯ̹] |
う段 | |
ゑ ヱ /we/ [e̞][注 3] |
れ レ /re/ [ɺe̞] |
𛀁() 𛄡() /ye/ [je̞] |
め メ /me/ [me̞] |
へ ヘ /he/ [he̞] |
ね ネ /ne/ [ne̞] |
て テ /te/ [te̞] |
せ セ /se/ [se̞] |
け ケ /ke/ [ke̞] |
え エ /e/ [e̞] |
え段 | |
を ヲ /wo/ [o̞][注 4] |
ろ ロ /ro/ [ɺo̞] |
よ ヨ /yo/ [jo̞] |
も モ /mo/ [mo̞] |
ほ ホ /ho/ [ho̞] |
の ノ /no/ [no̞] |
と ト /to/ [to̞] |
そ ソ /so/ [so̞] |
こ コ /ko/ [ko̞] |
お オ /o/ [o̞] |
お段 |
日本語の清音を母音と子音とで分類し、それに従い仮名文字を縦横の表に並べたものである。伝統的には、縦書き文の要領で、縦に母音の変化、横に子音の変化を表現する。横一列は母音がそろっており、これらをあ段、い段、う段、え段、お段といい、縦一行は子音がそろっており、これらをあ行、か行、さ行、た行、な行、は行、ま行、や行、ら行、わ行という。五十音図において「ん」はいずれの行、段にも属するものではないが、今日ではわ行の次に置かれる事が普通である。
五十音順は、この表では右から左に、上から下へ「あ」「い」「う」「え」「お」「か」「き」「く」「け」「こ」「さ」… と続く。
日本において1946年に現代仮名使いが導入されてからは、ヤ行のイ段・エ段、ワ行のイ・ウ・エ段は、同じ段の「い」「う」「え」を置くか、空白とする。それ以前は、ワ行のイ段、エ段は、「ゐ」、「ゑ」が置かれた。
子音が不揃いになっている部分があるが、上代日本語においてはより整然とした体系をもっていたと推測される。すなわち、「ち」と「つ」は現在の「ティ」と「トゥ」、現在では音素がズレている「ふ」を含めたハ行は現在のパ行、ヤ行はイ段、ワ行はウ段を除いて、おのおの y、w の子音であったとされる。
また、上代日本語より後の10世紀前半、ア行とヤ行のエ段が書き分けられていた頃の表は以下のようになる。ただし、上の表では「エ」はア行に配置されているが、実際には「エ」はヤ行エ段の発音であったためヤ行に配置し、ア行には当時使用された「衣」を字母に持つ別のカタカナを配置した。
わ行 | ら行 | や行 | ま行 | は行 | な行 | た行 | さ行 | か行 | あ行 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
わ ワ /wa/ [β̞ä] |
ら ラ /ra/ [ɺä] |
や ヤ /ya/ [jä] |
ま マ /ma/ [mä] |
は ハ /fa/ [ɸä] |
な ナ /na/ [nä] |
た タ /ta/ [tä] |
さ サ /sa/ [sä] |
か カ /ka/ [kä] |
あ ア /a/ [ä] |
あ段 |
ゐ ヰ /wi/ [β̞i] |
り リ /ri/ [ɺʲi] |
み ミ /mi/ [mʲi] |
ひ ヒ /fi/ [ɸi] |
に ニ /ni/ [nʲi] |
ち チ /ti/ [ti] |
し シ /si/ [ɕi] |
き キ /ki/ [kʲi] |
い イ /i/ [i] |
い段 | |
る ル /ru/ [ɺɯ̹] |
ゆ ユ /yu/ [jɯ̹] |
む ム /mu/ [mɯ̹] |
ふ フ /fu/ [ɸɯ̹] |
ぬ ヌ /nu/ [nɯ̹] |
つ ツ /tu/ [tɯ̹] |
す ス /su/ [sɯ̹̈] |
く ク /ku/ [kɯ̹] |
う ウ /u/ [ɯ̹] |
う段 | |
ゑ ヱ /we/ [β̞e̞] |
れ レ /re/ [ɺe̞] |
𛀁() エ /ye/ [je̞] |
め メ /me/ [me̞] |
へ ヘ /fe/ [ɸe̞] |
ね ネ /ne/ [ne̞] |
て テ /te/ [te̞] |
せ セ /se/ [se̞] |
け ケ /ke/ [ke̞] |
え 𛀀() /e/ [e̞] |
え段 |
を ヲ /wo/ [β̞o̞] |
ろ ロ /ro/ [ɺo̞] |
よ ヨ /yo/ [jo̞] |
も モ /mo/ [mo̞] |
ほ ホ /fo/ [ɸo̞] |
の ノ /no/ [no̞] |
と ト /to/ [to̞] |
そ ソ /so/ [so̞] |
こ コ /ko/ [ko̞] |
お オ /o/ [o̞] |
お段 |
- ^ 平仮名・片仮名
- ^ 昔は[β̞i]
- ^ 昔は[β̞e]
- ^ 昔は[β̞o̞]
- ^ サ行は古い時代には [ts] と発音されていたという説が有力であり、ハ行は当時の発音では [ɸ]、さらに古い時代には [p] であったとされている。なお k から m までの配列は、調音位置が口の奥から前へ来るように並べられているからである。ヤ・ラ・ワ行がまとめられているのは、サンスクリットでは y, r, v(実際の発音は[ʋ]か[w]) がそれぞれ i, ṛ, u に対応する半母音とみなされているからである。y, r, l, v という順序も、k から m と同じ理由である。
- ^ ハ行は当時、無声両唇摩擦音 [ɸ]
- ^ あ行が「アイウエヲ」、や行が「ヤヰユエヨ」、わ行が「ワイウヱオ」と表記されている。
- ^ もしくは空白とする。
- ^ 明覚『反音作法』、1093年
- ^ 五十音順はなぜ「あかさたな」の順番なのか? - ねとらぼ
- ^ a b Q.7 「あいうえお/あかさたな」の順なのはどうして? 肥爪周二|素朴な疑問vs東東京大学FEATURES、広報誌「淡青」 vol.45、2022.09号、2022-10-13
- ^ 古田東朔・築島裕『国語学史』東京大学出版会。
- ^ (渡辺(2012), p. 3) 原文に明治6年 (1871年) とあるが、明治6年は1873年である。なお、文部省による1873年の『小學教授書』の存在が確認できる。
- ^ a b c 古田ほか(1957), p. 26
- ^ 『片仮名元字』(出版年不明) では、この字は「以」の字の左側であると説明する図がある。
- ^ 小学校令施行規則、明治33年文部省令第14号、第一号表。法令全書 明治33年 (1900年)、p 496に掲載。リンク先は国立国会図書館デジタル化資料。
- ^ 『小学第一教 綴字篇』1873年、万蘊堂、魁文堂。
- ^ 小松英雄『いろはうた』(中公新書、1979年)。
五十音と同じ種類の言葉
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