FDR分析による事故の詳細
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/04 14:23 UTC 版)
「アルジェリア航空5017便墜落事故」の記事における「FDR分析による事故の詳細」の解説
パイロット達は、ワガドゥグーからアルジェへ飛行するための準備を整えており、飛行空域の天候も把握していたと考えられた。彼らは1時間半近く早くアルジェに到着しており、付近の地域の天候も知っていた。従ってパイロット達は、アルジェへの飛行経路では乱気流と着氷が発生する可能性を知っていた。そして、現地時間1時間15分にワガドゥグーを離陸した。初期上昇では異常は見られなかった(pp14, 116)。 離陸の13分後、5017便は21,500フィート (6,600 m)付近を上昇しており、付近の嵐を避けるために航路を左に逸脱した。パイロットはこれをワガドゥグー管制に報告した。しかし、暴風雨について知っていたにも関わらず、防氷装置は作動させていなかった。事故当時に飛行していた付近の気温は、着氷が十分発生し得る温度で、手順に従えば防氷装置を作動させるはずだった。着氷条件下を飛行していたが、機体に着氷はまだしていなかったようだった。パイロット達は、着氷の兆候などが見られず、乱気流にも遭遇していなかったため、防氷装置を作動させる必要は無いと考えた可能性がある(pp116–117)。 現地時間1時37分に、機体は水平飛行へ移った。パイロットは自動操縦とオートスロットルを操作した。水平飛行に移ったことにより、対気速度が上がったため、オートスロットルを巡航推力モードにした。その直後に、EPRの値が不正確になり始めた。オートスロットルは、誤ったEPRの値に基づいて、推力を調整した。設定された推力は、水平飛行を保つために必要な量を下回っており、機体は徐々に減速していった。1分ほどの間、左右のEPRの差が大きくなっていき、0.2-0.3付近で安定した。また、自動操縦は3回MACH ATLモードになった(pp117–118)。 右エンジンの異常から55秒後、左エンジンのEPRの値も不正確になり、増加し始めた。これにより、パイロットは異常事態が起きていることに気づいた。5秒後、エンジン出力が下げられ、EPRの増加が止まった。出力の減少は、パイロットがオートスロットルの目標速度を下げたか、スロットルを手動で動かしたかのどちらかと推測された。エンジンに異常が起きているのを認識したにも関わらず、速度が十分あったため、パイロットはエンジンの防氷装置を作動させなかった。彼らは、エンジンの圧力センサーが氷によって塞がれ、表示が不正確になっていることに気づかなかった(pp117–118)。 誤った左エンジンEPR値が限界に達するまで出力は上昇した。それでも必要な推力より少なかったため、速度は依然として減速した。左右のEPR差は通常に近い値になり、回転数も通常より僅かに低いだけだった。そのため、パイロットはEPRと回転数の不一致に気づかなかった。また、パイロットは2つの値を比較するために必要な書類を持っておらず、そのような対処法も訓練されていなかった。更に、付近の暴風雨を避け、管制官と交信する必要があったため、仕事量が多く多忙だった(pp117–118)。 5017便の対気速度は、失速間際の210ノット (390 km/h)まで低下した。マッハ計は垂直に近く、パイロットは機体を降下させるべきだった。しかし、彼らはスラストレバーを操作しただけだった。この対処は、EPRに異常がある場合としては適切だった。だが、失速寸前の機体を回復するには不十分だった。パイロットはEPRに異常があることに気付き、速度203ノット (376 km/h)の時点でオートスロットルを解除した。その後、SPEED LOWの警告がコックピット内で表示された。しかし、パイロットは管制官と交信を行っていたため、即時の対処は行わなかった(pp118–119)。 速度が200ノット (370 km/h)まで低下し、スティックシェイカーが起動した、3秒後には失速警報も作動した。機長席側ではSTALLの警報だけが作動し、副操縦士席側ではその他の警報も作動していた。この場合、パイロットは自動操縦を解除し、失速からの回復手順を実行すべきだった。しかし、どちらの対処もしておらず、機体が失速していることに気づいていない様子だった(pp118–119)。 高度を維持するために、自動操縦は水平尾翼と昇降舵のトリムを機首上げ位置に動かした。これにより、失速迎角の13度を上回る機首上げが発生し、STABILIZER MOTIONの警報が発せられた。機体の急上昇により、エンジンがサージングした。その後、エンジンはアイドルまで下げられており、パイロットがサージングに気づいて対処したと考えられた(pp119–122)。 スティックシェイカーの作動から25秒後に自動操縦が解除されるまで、パイロットがスロットル以外を操作した形跡はなかった。速度は162ノット (300 km/h)で、毎分1,150フィート (350 m)の降下率で落下していた。機体は左に傾斜しており、迎角は下がっていた。パイロットは機体を水平にするため、右へのロールを試みており、更に失速回避に必要な操作とは逆の機首上げ操作を行っており、これは5017便が地面に激突するまで続けられた(pp119–122)。
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