非閾値モデルとプルトニウムの毒性をめぐる論争
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「バーナード・L・コーエン」の記事における「非閾値モデルとプルトニウムの毒性をめぐる論争」の解説
コーエンは、「低線量被曝によって生じる発癌リスクの推定は、いずれも、線形非閾値 (LNT) の前提に立っているが、この理論は、既にほとんど信憑性を失っている放射線発癌(英語版)の概念にもっぱら基づくものであり、応用の観点から最も重要な低線量被曝の領域における実験的証拠はまったくない。こうしたリスクの推定が、その存在自体が疑わしい危険に対する備えのために、今や何百億ドルもの経費を費やすことにつながっている。この理論の有効性を検証することは、喫緊の重要性をもっているのだ。」と主張していた。 1995年に刊行された、記念碑的研究の新版の結論部分においても、コーエンは次のように述べている。「私自身や他の研究者たちによる永年の努力によっても、これ以上の妥当な説明は提起されていないのだから、私の結論は、私たちの前にある矛盾に対する最も妥当な説明は、低線量領域において、発癌リスクを過大に推定する直線非閾値理論は成立しない、ということである。この領域における理論を検証できるデータは、他には存在していない。」 「この結論の信頼性は、いくつかの選択された数値に基づいて、可能性のある、妥当性をもった説明を誰かが提案すれば、簡単に示すことができる。私なりその人物が、私たちの前にある矛盾に説明をつけることができるような、諸変数に入る数値を計算する。そうすれば私たちは、その説明の妥当性を判断できる。この手順が非合理的なものでないことを示すために、私は、既に発表された他のあらゆる生態学的研究のすべての知見を説明する、的外れとはいえない説明をひとつ提供した。この一事だけでも、私たちの研究が、他の生態学的研究と非常に異なっていることは示されているし、特に取り上げて検討する価値があることが示されている。」 コーエンが、ラドンに関する生態学的研究によって起こした論争は、学術誌に、R・ウィリアム・フィールド(英語版)、ブライアン・J・スミス (Brian J. Smith)(アイオワ大学の生物統計学准教授)、ジェリー・プースキン (Jerry Puskin)(アメリカ合衆国環境保護庁)、セーラ・ダービー(英語版)、サー・リチャード・ドール(英語版)らとのやり取りとして公刊され、広く知られた。この他の、専門家からの評価として、例えば世界保健機関 (WHO) の国際がん研究機関 (IARC) は、コーエンの分析結果を長々と検討した上で、「証拠の重みからみて、コーエンの生態学的分析は、却下できる」と結論づけている。 2011年3月、コーエンは、自身の研究と、低線量被曝は健康に肯定的な影響を与え発癌リスクを提言するかもしれない、という論争を呼びそうな結論について、「証拠は、両サイドにある。低線量被曝が、癌に対して、健康を守る方向で働くもしれないとする、いわゆる放射線ホルミシス理論は、科学界において議論の的となった」と述べた。さらに、「(膨大な量の研究結果からもたらされた証拠に基づくコーエンの見解では)事はそれにとどまらず、(例えば、社会経済、地理、民族、医療へのアクセスなど、500件以上検討された)いかなる交絡因子もこの結果を説明できない。しかし、私の研究は、低線量被曝は危険をはらんでいるという見解の唯一の根拠である、放射線被曝の危険は単純に放射線被曝量に正比例する、とした仮定の検証にあった。私の結論は、この仮定は誤りであるということだ」と述べた。この見解に対しては、高名な科学者たちから異論が出され、論争はその後も終結したとは到底言えない状態である。低線量被曝の効果が不確実という状態の中で、この分野における良質の研究成果が必要とされている。 その後の研究の進展とともに、コーエンの見解を支持する者も様々な形で登場しており、1982年の国際連合の作業グループ原子放射線の影響に関する国連科学委員会 (UNSCEAR) による研究は、「低線量被曝には、人の寿命を短くさせるような、非特異的効果は存在しないようである」と結論づけている。 1983年、コーエンは、ウラニウムは効率よく、際限なく使用することが可能であり、エネルギー再生の資源と見なすことが可能であるという提案を行なった。
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