防火教育の不足および初動対応の不手際
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/11 09:42 UTC 版)
「ホテルニュージャパン火災」の記事における「防火教育の不足および初動対応の不手際」の解説
2月8日午前3時17分頃、フロントマンをしていた当直従業員Aが別の当直フロント担当Dと勤務を交替した。この時に当直勤務に就いていた従業員はAを含めてルームサービス係B、ページ係C、フロント係Dの計4人がいた。従業員Aは、仮眠を取るために9階の当直従業員用の仮眠室として使用している一般客室968号室へ向かった。9階に上がった従業員Aは、きな臭さを感じたことからエレベーターホールに設置していた灰皿を確認したが異常はなかった。その直後にAは西棟中央ホール寄りの北側に位置する938号室から煙が噴出し、廊下の上部に煙の層が出来ているのを発見した。従業員Aは、火災を発見した時の対応を知らなかったことから客室のドアを直接ノックして声掛けをしたり、宿泊客に対して大声で緊急事態を知らせたりするなどの行動を取らなかった。内線電話でフロントに連絡することも行わなかった。従業員Aは、客室内を確認する必要があると考え、マスターキーを取りにフロントへ戻った。従業員Aから火災発生の一報を受けた別の当直従業員BとCの2人は、Aと共にマスターキーを持って9階へ上がった。従業員Bが938号室の宿泊客に対してノックと声掛けをしたところ、客室内から英語で助けを求める声が聞こえたので、従業員Cはマスターキーを使ってドアを開けた。 一方、警備員らも内線電話による火災発生の緊急連絡をフロントから受けた。警備員Aは、仮眠していた4人を起こした。警備員Bに対してすぐ非常ベルを鳴らすよう命じた後、自身は9階の火災現場へ向かった。警備員Aは、一人での対応には不安を感じたため、他の警備員と一緒に対応しようと考え、宿泊客らに対して直ちに避難を呼びかけるなどの対応を取らなかった。警備員Aは、宿泊客らを部屋に残したまま警備室へ戻った。警備員Bは手動式非常ベルの操作方法を知らず、火災発生の緊急館内放送も行わなかった。 938号室のドアが開いたとき、客室内から全裸の外国人男性客がよろけながら出てきた。その時に当直従業員3人が938号室の内部を確認した時は、火がベッドの内部深くを燻焼したあと、表面へ燃え移る形で出火し、その勢いを増し、天井や壁を這うように燃焼していた。従業員Bは同階中央ホールに設置されていた消火器を使用し、初期消火を試みたが、消火し切らないうちに薬剤が尽きてしまった。従業員Bは直ぐに別の消火器を探したが、9階では見付けられずに8階の中央ホールまで取りに行った。従業員Aは9階の消火栓を使おうとした。ところが消火栓の使い方が解らず、開閉バルブを開けることができなかった。消火器を持って9階へ戻ってきた従業員Bと従業員AとCの3人はこれ以上の消火活動は無理だと判断し、宿泊客に対する避難誘導、廊下全体の煙の広がり具合を確認するなどの行動を全くせず、火元の938号室のドアを開けたまま真っ先に従業員専用エレベーターで9階から4階を経由して1階フロントへ戻ってしまった。そのため、938号室がフラッシュオーバー現象による爆発燃焼を起こして炎が廊下へ吹き出し、廊下と各部屋は瞬く間に炎と煙に包まれていった。従業員Aが煙を最初に発見してから本格的な火災に発展するまで、わずか10分程度の出来事だった。 938号室のドアを開ける段階で、従業員が消火器または屋内消火栓に繋がるホースなどの消火設備をあらかじめ用意していれば、迅速な消火活動ができたはずである。だが、火炎を目視した後に消火器や消火栓を準備したため、初期消火が遅れた。初期消火においては、消火栓が使用できず、使われた機材は消火器1本だけであり、初期消火は不十分であった。ホテルの従業員が119番通報したのは、938号室の異変が認知されてから約20分後の、初期消火を諦めた後であったため、最初に119番通報したのはホテル関係者ではなく、偶然ホテルニュージャパンの前を通り掛かり、火災を目撃した勤務中のタクシー運転手だった(2報目は議員宿舎関係者、ホテルは3報目)。こうした初動の不手際が重なり、初期消火に失敗したことで938号室で発生した火災は、その勢いを増していった。火災発生時に就寝中だった9階以上の宿泊客は、938号室に近い別の部屋に宿泊していた女性客が悲鳴を上げたことで初めてその近くの宿泊客は火災発生に気付いて避難を開始するものの、そこから離れた部屋に宿泊していた客がこの時点で火災に気付くことはなく、彼らが火事に気づいた時は既に手遅れで、猛火と煙に行く手を阻まれ、非常口への経路を塞がれ逃げ場を失う形となってしまった。 この間、従業員らによる組織的かつ適切な避難誘導は確認されなかった。そもそも従業員控室は、専用の部屋が用意されておらず、経費削減の一環から各階の客室を使用していたために一斉の緊急呼び出しができず、各従業員が待機する各客室へフロントから内線電話を掛けて呼び出す必要があったために非常招集に時間が掛かる状態だった。その上彼らは、火災発生時にもしも小火程度で収まって大事に至らなかった場合は「無意味な騒ぎを起こした」と横井から叱責されるのを恐れ、非常事態においても社長の顔色を伺うような雰囲気に陥っており、火災発生に際して緊急事態を大声で周囲に知らせず、通常の巡回時と同様に小声で各部屋を軽くノックするだけであった。
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