軍用無線機と兵器
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 09:22 UTC 版)
第二次世界大戦中の軍用無線機の受信部には、感度や選択度の点からスーパーヘテロダイン方式が使われることが多かった。しかしアメリカなどと比較し無線技術が遅れていた日本の大戦初期の無線機には、再生方式やその応用である超再生方式を用いたものも多くあった。 例えば、日本海軍の代表的受信機である海軍92式特受信機では、長波の受信に2-V-1(高周波増幅2段 - 再生検波 - 低周波増幅1段)の再生方式を用いている。陸戦隊用無線機の海軍TM式短移動無線電信機の受信部も2-V-2(高周波増幅2段 - 再生検波 - 低周波増幅2段)の再生式である。さらに小型なトランク型の可搬式簡易電信機である海軍TM式軽便無線電信機は0-V-1(高周波増幅無し - 再生検波 - 低周波増幅1段)の構成だった。陸軍でも陸軍94式5号無線機や陸軍94式6号無線機など、可搬式の野戦用無線機には再生式の受信部を用いた。 また、日本海軍の艦船・潜水艦搭載用の対水警戒マイクロ波レーダーである海軍2号2型電波探信儀は、最初マグネトロンを用いた超再生方式の受信部が使われ、その後動作の不安定さを改善するため昭和19年頃に再生方式に変更されて使用された。このレーダーはその後スーパーヘテロダイン方式に改修され、終戦まで使用された。 日本以外では、例えばドイツの野戦用受信機として使われた再生式受信機 Torn.E.b.(独: Tornister Empfänger Berta)が有名である。これは2-V-1の構成で、後期のものは堅牢なターレット式コイル切替機構を用いて100kHzから6670kHzまでの周波数範囲を受信できた。初期バージョンは1920年代終り頃に設計され、多くの改良が加えられながらから1940年代まで生産された。 コンパクトさが要求されるスパイ活動やレジスタンス活動用の無線機の受信部にも再生回路がよく使用された。例えば、第二次世界大戦中にイギリスの特殊作戦執行部(Special Operations Executive、SOE)のために作成された小型の電信用の無線機パラセット(Paraset、正式名称 Whaddon Mark VII)には再生検波回路が使われ、主にノルウェイやフランス、ベルギーでの地下活動用に使われた。パラセットは通称で、パラシュートでエージェントと共に敵地に投下されたためこのように呼ばれるようになった。この無線機は送信部に1本(ビーム四極管 6V6)、受信部に2本の真空管(五極管 6SK7)を使い、受信部は 0-V-1 の構成で3.0~7.6MHzを受信できた。同じ時期、ソビエトでも小規模部隊やスパイ/ゲリラ部隊のための小型の電信用の無線機セーヴェル(露: Север、「北」の意味)が作成され、1942年末には月産2000台に達した。この無線機も3本の真空管が使われた。パラセットと異なり同じ真空管を送信部と受信部とで共用する構成のため機能が高く、受信部は 1-V-1 の構成だった。 また、日本国内でのスパイ事件で使われた再生式受信機として有名なものに、ゾルゲ事件でマックス・クラウゼンが使用したものがある。セーヴェルのような専用の無線機は使用されず、国内で普通に入手できたシャープ製の小型軽量な3球の再生式ラジオを短波用に改造した 0-V-1 の構成のもので、改造用の部品もすべて国内で購入された。事件当時の鑑定結果では、新京の5.16MHz、500Wの送信機からの信号を明瞭に受信できたという。 再生回路を無線機ではなく兵器の一部として使用したものに、アメリカ軍がマリアナ沖海戦で初めて実戦使用したVT信管がある。これは飛行機など目標物から外れても一定の範囲内に入れば起爆する信管で、命中率の向上に役立った。内部の真空管による発振回路でVHF帯の高周波を発生させるとともに、飛行機から反射されてきた電波を同じ真空管で受信し、それらの位相差の変化から生じるビート音を検出するもので、受信機としての動作は発振状態にした再生回路と同じである。
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