超越論的唯物論/ネオ生気論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/26 22:05 UTC 版)
「思弁的実在論」の記事における「超越論的唯物論/ネオ生気論」の解説
イアン・ハミルトン・グラントは「身体主義(somatism)」と彼が呼ぶ、身体に関する哲学と物理学を批判している。グラントは著書『Philosophies of Nature After Schelling』において、物質の定義に基きながらプラトン以降の哲学史を新たに語り直している。アリストテレスは形相と質料を区分し、質料は哲学にとって見ることができないものだとしたが、グラントはプラトン的な質料に回帰し、それが現実を構成する基礎的な要素であるだけでなく、現実を支配する力でもあると論じている。彼はこの議論をカント以後のドイツ観念論哲学者であるヨハン・ゴットリープ・フィヒテとフリードリヒ・シェリングをなぞりつつ、質料を実体と見るか便利なフィクションとして捉えるかという対立が今日まで続いていると論じる。そして、我々はプラトンを転覆しようとするのはやめて、カントを転覆するべきであり、プラトン的伝統における「思弁的物理学」、つまり物体を扱う物理学ではなく、「あらゆるものについての物理学」を取り戻すべきだとしている。 ユージーン・サッカーは「生命それ自体」という概念を検討し、それが哲学内部でどのように位置づけられ、またいかにして形而上学的性質を得てきたかを探っている。サッカーの著書『After Life』では、「生命(Life)」と「生物(the living)」が分離されていく中で生命の存在論がいかに働いてきたかを示し、時間、形相、魂といった他の形而上学的概念による生命という概念の「形状上学的な取り違え」が起きてしまったことを論じている。「生命の存在論はどれも、生命ならざるもの(something-other-than-life)によって生命について考えている。生命ならざるものはたいていの場合、時間や儚さ、形相や因果性、魂や内在といった形而上学的概念である」。サッカーは、この主題を論じるにあたりアリストテレスから中世スコラ哲学、神秘主義・否定神学、そしてスピノザやカントに至るまでの議論の過程をたどっており、先の三つ組の取り違えが今日の哲学においても顕在であることを示している(生命を時間として扱うプロセス哲学とドゥルーズ主義、形相として扱う生政治思想、魂として扱うポスト世俗的な宗教哲学)。サッカーは思弁的実在論と生命の哲学の関係を検討し、「生気論的相関(vitalist correlation)」について論じている。「生気論的相関とは、思考と対象(オブジェクト)、自己と世界の間に存する分離性と不可分性という相関する二重の必然性を維持し損なった状態のことであり、それは「生命」の概念を存在論化することによって引き起こされる」。サッカーは詰まるところ、「生命」についての懐疑論を支持している。「生命は哲学『の(of)』問題であるだけではなく、哲学『にとっての(for)』問題でもある」。 このグループに分類される集団として、「プロセス哲学」として知られる思想への準拠によって結び付けられる思想家たちも出てきており、シェリング、ベルクソン、ホワイトヘッド、ドゥルーズといった哲学者たちを主な参照軸としている。近年の例としては、スティーヴン・シャヴィロの著書『Without Criteria: Kant, Whitehead, Deleuze, and Aesthetics』があり、プロセスを基にした議論によって汎心論や生気論あるいはアニミズムが理論的に導出されている。シャヴィロにとって、ホワイトヘッドによる抱握(prehensions)と結合(nexus)の哲学こそが大陸哲学と分析哲学の最高のコンビネーションを実現しているという。最近のもう一つの例としては、ジェーン・ベネットの著書『Vibrant Matter』 が挙げられる。同書では、人間関係から物体へ、「活きた物質(vibrant matter)」への移行が論じられており、生物と無生物、人間の身体と非人間の身体の間をまたがる存在として位置づけられている。レオン・ニーモチンスキーは著書『Charles Sanders Peirce and a Religious Metaphysics of Nature』にて「思弁的自然主義(speculative naturalism)」と呼ばれる概念を提起し、自然は自らの無限に生産的な「活きた」基盤についての洞察を与えうるとされ、彼はそれを能産的自然(natura naturans)と同定している。
※この「超越論的唯物論/ネオ生気論」の解説は、「思弁的実在論」の解説の一部です。
「超越論的唯物論/ネオ生気論」を含む「思弁的実在論」の記事については、「思弁的実在論」の概要を参照ください。
- 超越論的唯物論/ネオ生気論のページへのリンク