記述スタイル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/14 06:33 UTC 版)
放浪への憧れに胸高鳴り、 "Old longings nomadic leap,"習慣の鎖に心いら立つ。 "Chafing at custom’s chain;"冬の眠りから再び "Again from its brumal sleep"野性の血が目を覚ます "Wakens the ferine strain." —ジャック・ロンドン(辻井栄滋 訳)、野性の呼び声 本作品は、1902年に刊行された『ブックマン(英語版)』の中のジョン・マイヤーズ・オハラによる『先祖返り』という名の詩の開始四行の連から始まる。そのスタンザは本作品の主要なモチーフの一つの輪郭を表現し、太陽輝くサンタクララバレー(英語版)で育ったバックは、生まれつきの本能と性質に戻っていく。 ロンドンが用いている異なる局面で変わっていく象徴と比喩表現を通して、テーマが移り変わっていくとレイバーは述べている。連れ去られて新たな自分自身を作り始める最初の局面での比喩と象徴は、痛みと血の強いイメージを伴う物理的暴力を示している。第2の局面では、疲労が支配的なイメージになり、バックの身近に死が描かれ、彼にとっても無縁ではないことが描かれる。第3の局面では、再生と生まれ変わりの時期を示して春に舞台を移す。最終部分では、野性への復帰を象徴する広い範囲での伝説が語られる。 設定は象徴的である…冒頭のカリフォルニア(南)は穏やかで物質文明的な世界を表し、主な舞台(北)は文明から外れた世界を象徴して厳しい競争にさらされる世界である。ロンドンが学び、バックの物語が示すように、アラスカでの厳しさ、無慈悲さ、および空虚さは命を縮めるように作用する。権力と支配権を握ろうとするスピッツ犬を、バックは打ち負かす。バックがハルたち三人組に売られたとき、彼は汚れているキャンプで自分自身を見つける。彼らは犬の扱い方も知らない自然を撹乱する侵入者である。それに対して、「自然と共に生きている」と表現されキャンプを清潔に保つバックの次の主人であるジョン・ソーントンと彼の二人の仲間は、動物を丁寧に扱い、自然の中での人間の品位を示している。ソーントンとその仲間は、バックと違って戦いに敗れるが、ソートンの死まではバックは完全には原始状態の野性に戻ることはなかった。 登場人物たちもまた象徴的な形式である。ソーントンと彼の仲間は忠誠心、純粋さと愛を表現する一方で、ハルたち三人組は虚栄心と無知を象徴している。比喩的描写の多くは、寒さ・雪・氷・闇などを強調する飾気の無い単純なものである。 ロンドンは作中の動きに対応して文章のスタイルを変化させている。ハルたち三人組の記述については、彼らが荒野への侵入者であることに対応させて、大げさなスタイルで書いている。逆にバックと彼の行動を説明するときには、(ヘミングウェイの文章スタイルの祖となるような)切り詰めた単純な文章スタイルで書いている。 物語は、フロンティア冒険譚として、エピソードが整理された時系列的で筋が良く通るような手法で書かれている。その書き方は当時人気があった雑誌冒険記事のスタイルを具体化したものであり、ドクトロウは「語りかけるような物語で、その結果、われわれに満足をもたらす」と述べている。
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