西ヨーロッパ諸語の場合
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 07:30 UTC 版)
西ヨーロッパ諸語における軽蔑・服従の非対称な待遇表現は、例に事欠かない。西ヨーロッパ諸語では、呼称、選択する語彙、二人称代名詞の使用法、依頼表現などで相手への差別・軽蔑を明確に表現でき、実際にも使用された。Brown and Gilman (1960:255)では、西ヨーロッパ系言語における軽蔑表現の実例として、現代以前の諸例が挙げられており、例えばその中からの一例を引くと、15世紀のイタリア文学内で、キリスト教徒がユダヤ教徒やムスリム(オスマントルコ人)に対して、砕けた人称代名詞を用い、対して非キリスト教徒の側はこわばった丁寧な人称代名詞を用いており、結果として、現実世界で実際にそうであったかとは関係なく、作品世界上で非キリスト教徒への軽蔑を表現している。また、Brown and Gilman (1960:270) では、公民権運動以前の状態として、アメリカ南部ではアフリカ系アメリカ市民は西ヨーロッパ系アメリカ市民から個人名で呼ばれ、対して逆に相手を呼ぶときは「丁寧呼称Mr+家族名」で呼ぶことをわきまえるよう求められていたことを述べている。ただし、これらの待遇表現上の差別は、すべて現代西ヨーロッパ諸語では公的には消滅した。 現代西ヨーロッパ諸語で残っている待遇表現上差別として、主たるものはまず軍隊で、ここでは階級における支配者・優位者に対して、例えば英語であればSir/Ma'amを付け、対して相手はそれを付けない。また、学校、とりわけ高校以前での教師と学生の間での呼称・代名詞での非対称性がある。 たとえば現代イタリアでは、小学校時代は教師の名前を呼べ、Tuを使えても、中学校以降になるとLeiを使い、名前を呼べず、対して教師は学生をTuを使い、名前で呼ぶ。しかし、大学以降になると、多くの場合お互いLeiになり、名前を使わなくなるため、対称使用が原則となる。現代ドイツでも、親称の二人称代名詞、Duで呼ばれ、敬称の二人称代名詞、Sieで返す、非対称な代名詞使用をしていた学生は、15〜16歳程度になると、教師からSieで呼ばれ、対称使用が原則となる。 英語圏では、人称代名詞ではなく呼称で差別が現れる。小中高と「Mr/Ms+家族名」で学生は教師を呼び、教師は基本的に個人名で学生を呼ぶ。しかし、ピンカー (2009:128-129) によれば、現代アメリカの場合では大学以降になると、とりわけ研究室に入り教師と仲間関係になると、お互い個人名を呼び合い、対称使用が原則となる。Brown and Gilman (1960:271) では、すでにこの時代から、お互いに個人名で呼び合うという大学の教師と学生との関係がアメリカで一定程度見られたことを記述している。次に子供と親との間の呼称の非対称性がある。Brown and Gilman (1960:269-270) では、この時点で、非常に革新的な親以外は、子供から個人名で呼ばれることを許容しなかったとある。ただし、代名詞に関しては基本現代西ヨーロッパ諸語では親子は平等であり、お互いに砕けた二人称代名詞を使うか、英語のようにyou一つで済ます。
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