製作資金確保をめぐる問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 17:51 UTC 版)
「最後の戦い」の記事における「製作資金確保をめぐる問題」の解説
『最後の戦い』製作には、総額およそ350万フランの予算を見込んだ。 フランスの大手映画会社ゴーモンのドゥニ・シャトーという人物は、『サブウェイ』の企画が頓挫した頃から、ピエール・ジョリヴェを評価していた数少ない人物だった。ベッソンとジョリヴェは『最後の戦い』の構想をシャトーのもとへ持ち込んだ。シャトーは、短期間に新たな映画構想を持ち込んできたことに驚きつつも、ゴーモン社へ『最後の戦い』製作へ出資するよう働きかけたという。しかしゴーモン社はこれを却下した。ゴーモン社としての支援ができなくなった後も、シャトーは個人として、映画完成の暁には上映館を確保するよう約束した。 ベッソンとジョリヴェは、ほかの製作会社・配給会社へも手当たり次第に交渉にでかけたが、全て出資を断られた。あるとき、配給業を営むと称する「怪しげな」人物に出会うと、20万フランでフランス国内での『最後の戦い』配給を請け負うと持ちかけられた。ベッソンらはこの人物と契約したが、この人物はまもなくこの契約を無断で第三者へ50万フランで転売してしまい、30万フランの利ざやを稼いで逃げた。そのうえ、この人物は実際にはパリ地区・ボルドー地区の配給権をもっていなかった。ベッソンらはこうした事情を知らないまま、この20万フランの契約金を支払うための銀行融資を受けるべく、中央映画庁へ信用保証の申請を行ったのだが、却下されてしまった。却下の理由は、この人物には実際の配給能力がなく、詐欺師であるというものだった。結局ベッソンらには、20万フランの負債だけが残ることになった。 ベッソンらは、映画会社をあきらめ、経済力のある個人を訪ねて出資を頼んで回ることにした。そのうち見つかったのが、旅行代理店経営者のコンスタンタン・アレグザンドロフ(Constantin Alexandrov)である。ベッソンらがアレグザンドロフに脚本を読ませ、予告編として『最後から二番目の男』を見せたところ、50万フランの出資を約束してくれた。このまとまった資金のあてがついたことで、『最後の戦い』製作が具体的に進むことになった。 ほかに出資をした者としては、編集のソフィー・シュミットの伝手でみつけたエリック・プルイエという人物がいる。プルイエは自動車事故に遭って保険金を受け取っており、その一部を『最後の戦い』製作に出資することを約束した。このほか、リュック・ベッソンの義父も少々出資をしたという。 総額350万フランのあてはないが、アレグザンドロフの50万フランという当座の資金の目処が立ったことで、ベッソンらはあらためて銀行へ融資を申し込んだ。しかしクレディ・リヨネ銀行は、『サブウェイ』の企画が頓挫した際に200フランを滞納していたせいで謝絶された。UBP銀行は融資を認めたが、その額はわずかに1500フランだったという。ベッソンらが増額を求めて食い下がると、最終的に2500フランまでは融資を承諾した。予算からするとあまりに端金ではあったものの、資金の乏しいベッソンらはこの融資を受けることにした。 こうしてベッソンらは総予算350万フランのうち、当座の資金として70万フランほどの目処を立てたことで、映画撮影に踏み切った。だが資金の大半を占めるアレグザンドロフからの50万フランは、アレグザンドロフが海外出張中のために振り込みが遅れ、開始から1週間もすると早速資金難に陥った。このため、ジョリヴェの友人ミシェル・ド・ブロカが、つなぎ資金の貸付を図ってくれたという。 総予算が確保できないうちに撮影に入ったため、ベッソンは撮影初日にスタッフ一同に対し、賃金の支払いが滞る旨を説明した。しかもその額は賃金は非常に低いか、もしかすると無報酬である。チーフ助監督として雇った人物は報酬の前払いを求めてきたため、ベッソンはこれに応じた。ところがこの人物は、別作品撮影のため主要スタッフを引き連れていなくなってしまい、先に払った報酬も返さなかった。ベッソンらは、さらに乏しくなった資金で、いなくなったスタッフの穴埋めを急遽探すことになった。ジャン・レノの友人のティエリ・フラマンが美術を引き受けることになった。 撮影2日目は、立体駐車場を廃墟に見立てての撮影だった。ところが手違いがあり、ベッソンらは500万フランの損害賠償を請求されることになった。ベッソンらは駐車場の経営者から撮影許可を得て、そこで数台の自動車をひっくり返して配置し、撮影にとりかかった。しかし、撮影許可を得ていたのは5階だったのに、ベッソンらは誤って6階で作業をしてしまった。駐車場経営者は、建物所有者とのあいだで係争があり、敗訴して6階の原状復帰を迫られていた。そのためフロアの清掃を済ませ、コンクリートの塗り直しを行うところだった。その直前にベッソンらが廃車を何台もひっくり返したため、車の油などが流出して汚れてしまった。原状復帰が遅れることで駐車場経営者は建物所有者に対して遅延損害金を支払う義務を負っており、駐車場経営者は、ベッソンらが汚損した6階の証拠写真を撮って調書を作成し、翌日に500万フランの損害賠償を求めてきたのである。 さらに、撮影フイルムをめぐるトラブルが発端で、ベッソンらはフイルム製造会社のアグフア社から10万フランの損害賠償を要求されることになった。アグファ社から購入した在庫品のフイルムを使用して撮影を始めると、撮影中のフイルム切断が多発するうえ、現像してみると画面上にノイズが写り込んでいた。ベッソンらはアグフア社と交渉したが決裂、フイルム代の支払いを拒絶したところ、10万フランの支払いを求めて提訴されたのだった。 当初見込んでいた350万フランの予算に対し、実際に要した費用は税抜で3,289,949フランだった。当初確保した70万フランの資金は当座の撮影費で使い果たしてしまった。その後の現像や編集などは負債となった。費用面では、人件費とその社会保障費が大きく、負債総額は300万フランにのぼった。
※この「製作資金確保をめぐる問題」の解説は、「最後の戦い」の解説の一部です。
「製作資金確保をめぐる問題」を含む「最後の戦い」の記事については、「最後の戦い」の概要を参照ください。
- 製作資金確保をめぐる問題のページへのリンク