薬物規制の失敗
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/21 12:56 UTC 版)
「麻薬に関する単一条約」の記事における「薬物規制の失敗」の解説
「麻薬戦争」も参照 公布から50年が経過した2011年、薬物政策国際委員会は、麻薬に関する単一条約から始まる薬物戦争が失敗に終わったことを宣言し、大麻の合法化の検討といった薬物政策の見直しを求めた。条約は「人類の健康と福祉」を目的としているが、成功をもたらしていない。規制した薬物の消費量は増大してきた。規制は、巨大な犯罪闇市場に利益をもたらし成長させてきており、薬物使用者は烙印を押され、薬物依存症の治療から疎外されている。 厳しい刑罰が薬物の使用を抑制するという仮説は反証されており、非犯罪化などの寛容政策を採った国々の使用率や依存率は上昇しておらず、より厳しい政策をとっている国々の方が、薬物の使用による問題が大きい。それに加え、禁止は合成カンナビノイドといった合法ドラッグの市場をにぎわせている。 50年前の1961年に僅かな科学的な証拠に基づいて設計された、薬物の相対的な有害性による現行のスケジュールの指定は、明白な異常をもたらし、特に大麻やコカの葉は、現在では誤ってスケジュールが指定されている。スケジュールIの指定は、医療大麻のような治療的な利用に対する影響を研究することを困難にしている。 2013年国際連合の薬物乱用防止デーにおいて、法の支配は一部の手段でしかなく、処罰することが万能の解決策ではないという研究が進んでおり、健康への負担や囚役者を減らすという目標に沿って、人権や公衆衛生、また科学に基づく予防と治療の手段が必要とされ、このために2014年には高度な見直しを開始することに言及し、加盟国にはあらゆる手段を考慮し、開かれた議論を行うことを強く推奨している。 2016年4月には、国際連合薬物特別総会(UNGASS:UN General Assembly Special Session on Drugs)2016が開催される。以前の総会は1998年に開催され、加盟国には非現実的な「薬物のない世界」という目標が課されたが、犯罪や暴力が薬物の使用によるものではなく、規制の結果であることが示されてきており、近年では大麻の合法化など制限を緩めている国があり、また犯罪を強調することが人権蹂躙を引き起こしているなど、見直しの必要性が挙げられている。2016年11月30日、世界保健機関の専門委員会は正式な審査がなく、医療大麻も用いられているため審査の準備を開始している。 2018年11月には国連システム事務局調整委員会は、国連システムとしての薬物問題への対処法を確認し声明を出したが、人権に基づくこと、偏見や差別を減らし科学的証拠に基づく防止策や治療・回復を促すこと、薬物使用者の社会参加を促すことといった考えが含まれている。2019年6月には、国際麻薬統制委員会 (INCB) も声明を出し、薬物乱用者による個人的な使用のための少量の薬物所持のような軽微な違反に対して懲罰を行うことを薬物を規制する条約は義務付けておらず、そのような場合には有罪や処罰ではなく治療や社会への再統合という代替策があるとした。持続可能な開発のための2030アジェンダ (SDG) の目標として薬物規制条約に従いながら人権保護を最大化するために、国連開発計画や世界保健機関は「人権及び薬物政策に関する国際ガイドライン」を出版した。 国立精神・神経医療センターの薬物依存研究部の松本俊彦によれば、条約の前文では「人類の健康と福祉」を心配しているのに、日本の現状として薬物問題からの回復を妨げるかのように刑罰が偏見を生み出してしまっていれば、健康と福祉に対し逆効果ではないか、日本でも健康と福祉について慎重に議論すべきだと指摘している。
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