職務著作の条件と対象
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/14 08:54 UTC 版)
どのような著作物であれ、一般的にはその創作者たる個人に著作権が発生する。この原則を「原始的帰属」と呼ぶ。これに対し、職務上創作した場合は創作した個人 (被用者) ではなく、雇用主・委託主 (使用者) に著作権があると捉えるのが職務著作である。 世界の多くの国では、著作物を創作すればそれが未完成・未公表であっても、またアマチュアの私的目的の創作物であっても、著作権が自動的に発生する「無方式主義」を採用している。つまり特許のように政府当局への登録・審査などの手続を必要としないことから、誰に著作権が発生したかが曖昧になり、創作した個人 (原始的帰属) と雇用主・委託主 (職務著作) の双方が著作権を主張して、後に対立することがある (詳細は#各国著作権法での取扱で後述)。 各国の著作権法では条文上で職務著作を定義しているほか、個別の事案における「職務」の解釈は裁判所の司法判断に委ねられている。原始的帰属と職務著作を線引きする際の一般的な論点としては以下が挙げられ、各国で取扱に差異がある。 職務の一環とは、雇用契約に基づいてフルタイムで就労する企業・団体の従業員のみか、またはフリーランスなど外部の委託・発注先まで含むのか 職務著作が認められるには、企業・団体がどこまで創作に関与する必要があるのか (創作プロジェクトの企画立案、創作費用の負担、創作者の管理監督度合いなど) 職務著作は自動的に認められるのか、または被用者と使用者の間で書面による明示的な合意が必要とされるのか 企業・団体が職務著作の単独権利者となるのか、または従業員や委託・発注先との共同著作となるのか 特定の著作物ジャンルにおいて、職務著作の個別規定はあるか (共同製作が一般的な映画の著作物、企業による開発が多いコンピュータ・プログラムなど) 世界の法体系は大陸法と英米法に分かれ、職務著作についても大まかな違いが見られるものの、各国でバラつきがある。フランスやドイツなどの大陸法諸国は、著作権は個人 (自然人) の所有権であると捉えることから、個人が著作権を有すると考えられている。一方の英米法諸国は功利主義に基づき、公共の発展のために著作物の産業を保護する思想であることから、大陸法諸国と比較して職務著作が肯定的に捉えられている。したがって、英米法諸国については、原則として雇用主に著作権が帰属するのが一般的である。 さらに職務著作では、誰が権利を有するのかだけでなく、保護される権利の中身も通常とは一部異なる。 著作財産権の保護期間 -- 原始的帰属の場合、著作者の存命中および死後50年間ないし70年間とする国が多い。その著作物がいつ公表されたかや、そもそも公表されたかは不問である。一方の職務著作の場合は個人の死亡日を基点にできないことから、著作物の公表日を基点にして一定年数を保護期間に設定する 著作者人格権の範囲 -- 氏名表示権を除き、職務著作には著作者人格権が認められない。 なお、ここで言う著作権とは、著作財産権と著作者人格権の総称である。著作財産権とは著作権者の「財布」が守られる権利であり、具体的には第三者に無断で著作物をコピーされない権利 (複製権) や、無断で著作物を流通販売されない権利 (頒布権)、無断で著作物を二次利用されない権利 (翻案権) などを含む。また著作者人格権とは著作者の「心」が守られる権利であり、無断で著作物を公表されない権利 (公表権)、公表する際に表示する氏名 (実名・変名・匿名) を選べる権利 (氏名表示権)、無断で著作物の中身を改変されない権利 (同一性保持権) などの総称である。
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