老婆
★1a.老婆と若い男。
『伊勢物語』第63段 九十九髪(つくもがみ)の老女が、「良い男に逢いたい」との願いを、夢に託して、3人の息子に語る。長子・次子は聞き流すが、末子が、狩りに出た美男の在五中将の馬の手綱を取って訴え、老女は在五中将と逢うことができた〔*→〔老婆〕2aの『三国伝記』巻10-5に類似〕。
『うつほ物語』「忠こそ」 50余歳の未亡人・一条北の方は、30歳過ぎの橘千蔭を愛人とするが、橘千蔭の訪れは絶え絶えのまま、数年が過ぎる。一条北の方は、橘千蔭の息子で13~14歳になる忠こその美貌に心を動かし、よこしまな恋をしかける→〔宝〕3b。
『源氏物語』「紅葉賀」 57~58歳にもなる好色な老女源典侍が光源氏に流し目をつかい、19歳の光源氏は、たわむれ心から彼女と関係を持つ。
『閲微草堂筆記』「如是我聞」146「少年と老婆」 夜、某家の墓で16~17歳の美青年と70~80歳の老婆が、恋人どうしのように語り合うさまを、ある人が目撃する。翌日聞いてみると、某家の主人は若死にし、その妻が50年余り後家を立て通して、死後合葬されたことがわかった〔*→〔老翁〕1bと対照的な物語〕。
『カンタベリー物語』「バースの女房の話」 騎士が、女王から「女がいちばん好きなものは何か?」との難問を与えられる。醜貌の老婆が、「女は、夫への支配権を持つことをもっとも好む」という答えを教えてくれる。しかしその返礼に、老婆は騎士との結婚を要求する。騎士は嘆くが、老婆の説得によって、「醜くとも貞節な妻が良い」と考え直し、結婚を承知する。その途端、老婆は若く美しい姿に変わる。
『三国伝記』巻10-5 3人の子を持つ老衰の下女が、狩りに出た国王を見て恋の病いになる。末子が、『法華経』「薬王品」中の一節を唱えるよう勧める。6日6夜たつと老母は美しく若返り、国王に迎えとられて后となる。
『魔笛』(モーツァルト) 鳥刺し男パパゲーノは、美女が得られると聞いて、王子タミーノとともにいくつかの試練に挑む。パパゲーノは洞窟に閉じ込められ、そこへ醜い老婆が来て「私と結婚しなけりゃ永久に洞窟の中だよ」と脅す。パパゲーノが「洞窟の中よりは、婆さんと一緒になる方がましだ」と言うと、老婆はたちまち若い娘(パパゲーナ)に変身する。
『卒塔婆小町』(三島由紀夫) 詩人が、公園のベンチに座る99歳の乞食老婆に出会う〔*原典の能『卒都婆小町』では百歳の老小町が、卒都婆(=卒塔婆)をただの朽木だと思って、その上に腰を降ろす〕。老婆は80年前、20歳の頃の鹿鳴館での夜会の思い出を語る。話を聞くうち、詩人には老婆が20歳の美女に見えてくる。詩人は老婆に求愛し、「君は美しい」と言って、倒れ死ぬ。
『好色一代男』巻3「一夜の物ぐるひ」 大原のざこ寝の暁、竹杖をつき腰をかがめ、綿帽子をかぶって行く老女がいる。石燈籠の光に照らされた顔を見ると21~22歳の美女なので、世之介がわけを問うと「私に心をかける人が多くうるさいゆえ、姿を変えて逃れ来た」と語る。
『万葉集』巻2 126歌左注 美貌の大伴田主に恋した石川女郎は、夜、賤しい老婆に変装し、土鍋をさげて田主の寝所の側まで出かけ、戸を叩いて火種を請う。田主は、若い女が共寝を望んで変装してやって来たとは気づかず、火種だけ与えて返してしまう。
『柳藻』(内田百閒) 晩春の午後、婆が若い女の子を連れて野原を行く。「私」は女の子の袖を引いて婆から離そうとするが、女の子は泣きそうな顔で「私」を見て、婆の後を追う。「私」は一打ちに婆を殺し、女の子の手を握って歩く。柳藻の打ち上げられた磯を歩きつつ女の子を見ると、それは先ほど殺した婆だった。
*姫君を連れ出したつもりが、祖母の尼だった→〔取り違え花嫁〕1の『堤中納言物語』「花桜折る少将」。
『ルスランとリュドミラ』(プーシキン)第1歌 旅のルスランが、洞窟に住む老人から聞いた物語。「昔、若かった頃、わしはナイーナという美女を恋した。ナイーナはわしを拒絶したので、わしは魔法の力で彼女の愛を得ようと、何年もかけて魔法を学び、ついにナイーナを呼び寄せることに成功した。しかしわしが見たのは、白髪の老婆だった。ナイーナは『今日、私は70歳になった。さあ、私を抱いて下さい』と言ったが、わしは逃げた」。
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