療養補償給付・療養給付
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/07 10:21 UTC 版)
「労働者災害補償保険」の記事における「療養補償給付・療養給付」の解説
業務災害・通勤災害により、労災病院(労災保険法に基づく社会復帰促進事業として設置された病院をいう。以下同じ)・労災指定医療機関等(都道府県労働局長の指定する病院又は診療所をいう。以下同じ)で療養(治療)を必要とする場合は、療養の必要が生じたときから、傷病が治癒するか、死亡又は症状が固定化して療養の必要がなくなるまでの間、原則として必要な療養の給付(現物給付)が行われる(第12条の8第2項)。業務上の疾病が治って療養の必要がなくなってもその後にその疾病が再発した場合は、原因である業務上の疾病の連続であって独立した別個の疾病でないから、引き続き補償は行われる(昭和23年1月9日基災発13号)。給付請求書に、「負傷又は発病の年月日」「災害の原因及び発生状況」について事業主の証明を受けたうえで、病院等を経由して所轄労働基準監督署長に提出することで行われる。指定病院等を変更する場合も同様の届出が必要である。給付の範囲は以下のとおり(政府が必要と認めるものに限る)である。 診察 薬剤又は治療材料の支給 処置、手術その他の治療死後の診断又は医師の判断により死体に施した適宜の処置は療養の範囲に属するが、本来葬儀屋が行うべき処置(死体のアルコール清拭、口腔等への脱脂綿充填等)は医師が代行した場合は葬祭料の範囲に属する(療養の範囲に属さない)(昭和23年7月10日基災発97号) 医師が直接の指導を行わない温泉療養については支給されない。ただし、病院等の付属施設で医師が直接指導のものにおいて行うものについてはこの限りでない(昭和25年10月6日基発916号) 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護 病院または診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の監護 移送(原則として片道2キロメートル以上の場合に給付対象となる)業務災害の発生直後に重症患者を災害現場から労災病院に病院備え付けの救急車をもって移送した場合、監督署長の承認の下に特に労災病院に転院のため救急車をもって収容する場合は移送の範囲に含まれる(昭和31年4月27日基収1058号)。病院の自家用車を用いた場合でも、請求額が社会通念上妥当と認められる場合は全額が支払われる(昭和31年9月22日基収1058号)。 災害現場で医師の治療を受けずに医療機関への搬送中に死亡した場合、死亡に至るまでに要した搬送費用は移送費として支給される(昭和30年7月13日基収841号) 遠隔地において死亡した場合の火葬料及び遺骨の移送に必要な費用は、療養補償費の範囲に属さない(昭和24年7月22日基収2303号) 例外として、療養の給付をすることが困難な場合、又は療養の給付を受けないことについて労働者に相当の理由がある場合には、療養の給付に代えて療養の費用を支給することができる(現金給付)。「相応の理由がある場合」とは、労災指定医療機関以外の医療機関に緊急の必要でかかった場合や、最寄りの医療機関が指定医療機関等でなかった場合をいう。この場合、療養の費用は一旦自己負担となるが、療養の費用請求書に、「負傷又は発病の年月日」「災害の原因及び発生状況」について事業主の証明を受け、「傷病名および療養の内容」「療養に要した費用の額」について診療担当者の証明を受けて、直接所轄労働基準監督署長に提出することで、後日償還される。 この支給は、業務災害の場合は自己負担なしで受けられるが、通勤災害の場合は以下の者を除き、200円(健康保険法による日雇特例被保険者は100円)の一部負担金がある(療養に要した費用が200円(100円)に満たない場合は、その現に療養に要した費用の総額が一部負担金となる)。この一部負担金は、休業給付の最初の支給額から控除されることで徴収される。 第三者の行為によって生じた事故により療養給付を受ける者 療養の開始後3日以内に死亡した者その他休業給付を受けない者 同一の通勤災害に係る療養給付についてすでに一部負担金を納めた者 特別加入者 なお、労災の対象になる場合は、健康保険等の対象外となり、第三者行為の如何に関わらず、初めから健康保険を適用して受診することができない。療養の給付に関して、労災の対象となるかどうかは、労働基準監督署長が諸事情を考慮して決定する(未決期間は業務上として取り扱う)。ただ後日、「初回から労災として認めない」との決定を受ける場合がある(労災は申請してもすぐに決定が出るわけではない)。この場合、初回分から改めて健康保険等での受診として計算し直し(健康保険を適用しない場合は原則自由診療となり、医療機関は比較的自由に診療費用を設定できる)、患者は医療機関に自己負担金(自由診療の場合の費用や健康保険適用の場合の差額など)を支払う必要が生じる。この決定が、数年後という場合もあるため、自己負担金が高額となり、患者の経済的な負担や、医療機関の未収金などの問題となる場合もある。 療養の給付は現物給付なので時効にかからないが、療養の費用の給付は、療養に要する費用を支払った日の翌日から起算して2年の時効にかかる(第42条)。
※この「療養補償給付・療養給付」の解説は、「労働者災害補償保険」の解説の一部です。
「療養補償給付・療養給付」を含む「労働者災害補償保険」の記事については、「労働者災害補償保険」の概要を参照ください。
- 療養補償給付・療養給付のページへのリンク