異なる試み
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/07/20 12:47 UTC 版)
「アルクビエレ・ドライブ」の記事における「異なる試み」の解説
先述のように一般相対性理論的なワープは宇宙船を取り囲む局所的な計量が進行方向へシフトすれば達成されるため、そのような結論を得られるのであればアルクビエレが考案したような計量に拘る必要はない。そのようなバブル計量として、たとえばJose Natarioが発表したものがある。この計量においては前方の空間が半径方向に収縮しつつそれと直角な方向に膨張し、後方の空間が半径方向に膨張しつつそれと直角な方向に収縮する。 また、ワープバブルの考案において場の量子論を用いた新しい試みも為されている。それが2007年にRichard ObousyとGerald Cleaverによって発表された論文である。Obousy達の理論は、M理論などの一般相対性理論を高次元に拡張したカルツァ=クライン理論の表記形式から計算されたカシミール効果から定まる真空のエネルギー ⟨ E v a c ⟩ {\displaystyle \langle E_{vac}\rangle \,} と宇宙定数 Λ {\displaystyle \Lambda \,} との間の関係から、超弦理論に登場するミクロにコンパクト化された余剰次元の半径 R e x t r a {\displaystyle R_{extra}\,} と宇宙定数 Λ {\displaystyle \Lambda \,} との間に成立する関係を導くことが主な目的である。Obousy達の計算によると、その関係は次のようになる。 ⟨ E v a c ⟩ = − π 2 R e x t r a 4 [ ( 2 + n ) ( 3 + n ) 2 − 1 ] [ ζ ( 0 ) ] n − 1 ζ ′ ( 4 ) , {\displaystyle \langle E_{vac}\rangle =-{\frac {\pi ^{2}}{R_{extra}^{4}}}\left[{\frac {(2+n)(3+n)}{2}}-1\right][\zeta (0)]^{n-1}\zeta ^{\prime }(4),} ⟨ E v a c ⟩ = Λ ∝ 1 R e x t r a 4 . {\displaystyle \langle E_{vac}\rangle =\Lambda \propto {\frac {1}{R_{extra}^{4}}}.} n {\displaystyle n\,} は余剰次元の次元数であり、 ζ {\displaystyle \zeta \,} はゼータ関数である。ここで更に宇宙膨張の尺度を与えるハッブル定数 H {\displaystyle H\,} との関係を考察すると次のように表される。 H ∝ Λ , {\displaystyle H\propto {\sqrt {\Lambda }},} H ∝ 1 R e x t r a 2 . {\displaystyle H\propto {\frac {1}{R_{extra}^{2}}}.} つまり、余剰次元の半径を何らかのメカニズムを用いて変化させることができれば局所的にハッブル定数を変化させることが数式上は可能である。この関係から R e x t r a {\displaystyle R_{extra}\,} を小さくする、すなわち余剰次元を収縮させれば膨張の尺度であるハッブル定数 H {\displaystyle H\,} が急激に増大する、すなわち時空が膨張することが言える。逆に余剰次元を膨張させれば時空は収縮する。更にこのような膨張と収縮の関係は宇宙定数 Λ {\displaystyle \Lambda \,} がゼロであっても成立することをObousy達は示している。つまり余剰次元の存在が確認され、かつ余剰次元のサイズを操作する何らかの方法が見つかれば、ワープバブル内の宇宙船はバブルの内側からバブルの運動を操作できる。この論文で考察されているワープバブルの移動原理はアルクビエレ・ドライブと同じであるが、最も特筆すべきはそのバブル作成に要するエネルギー量である。現在予想されているハッブル定数と宇宙定数の値を用いると、光速度で膨張するワープバブル時空の持つ宇宙定数の値は Λ c = 10 42 J / m 3 {\displaystyle \Lambda _{c}=10^{42}\ J/m^{3}\,} であり、宇宙船を1辺 10 m {\displaystyle 10\ m\,} のキューブ状と設定するとその体積は V c r a f t = 1000 m 3 {\displaystyle V_{craft}=1000\ m^{3}\,} なので、ワープバブルの有するエネルギーは E c = 10 45 J {\displaystyle E_{c}=10^{45}\ J\,} と計算される。これを質量に換算すると木星質量ほどであり、マクロスケールのワープバブルであるにもかかわらず必要エネルギーが惑星質量の単位まで削減されていることがわかる。仮にPfenning達の設定と同じく半径 100 m {\displaystyle 100\ m\,} の球体をワープさせると仮定しても、必要エネルギーは太陽質量の数倍程度である。また、余剰次元の半径 R e x t r a {\displaystyle R_{extra}\,} の縮小限界はプランク長であるので、このワープには限界スピードが存在する。 R e x t r a {\displaystyle R_{extra}\,} をプランク長にまで縮小した場合の限界速度は光速度の 10 32 {\displaystyle 10^{32}\,} 倍であり、この速度は宇宙全体を 10 − 15 {\displaystyle 10^{-15}\,} 秒ほどの時間で横断できる速度である。ただしその場合の必要エネルギーは 10 99 kg {\displaystyle 10^{99}\ {\mbox{kg}}\,} であり、これは宇宙に存在する観測可能なエネルギーよりもはるかに大きい。
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