生活保護費抑制と水際作戦
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/05 14:29 UTC 版)
「生活保護問題」の記事における「生活保護費抑制と水際作戦」の解説
2018年時点で全国で生活保護を受けている世帯は約164万世帯、人数では約210万人である。生活保護者数の多い順に東京都(27万9078人)、大阪府(6万8135人)、北海道(6万3608人)、埼玉県(5万7110人)である。逆に少ないのは富山県(1669人)、石川県(3013人)、島根県(3019人)、鳥取県(4089人)の順になっている。人口比で約8.8倍しかない東京都と富山県では実に約167倍もの人口比の生活保護者数になっているように傾向として、大都市のある都道府県が多くなっている。 このような人口比の生活保護者率が高い、都道府県の一部地方公共団体の生活保護行政における「水際作戦」が採られた。福祉事務所において保護申請の受付を拒否することで、生活保護の受給を窓口という「水際」で阻止する方策である。日本国憲法第25条を基に制定された生活保護法で保護請求権によって、いったん申請されてしまうと、多くの場合は保護をすみやかに開始しなければならないことから、違法に申請を拒否しているとの指摘が、全国生活と健康を守る会連合会 や日本弁護士連合会からなされている。 日本弁護士連合会の2006年調査によると、福祉事務所に行ったことがあると答えた180件のうち、118件で福祉事務所の対応に違法性が見られたとして、担当職員の「門前払い」の問題も、各地の弁護士会から指摘されている。 保護請求権を行使する具体的な方法である保護の申請は、国民の権利として保障されており、こうした対応は違法行為であるが、福祉事務所がこのような対応を行う背景として、昭和56年11月17日厚生省社会局保護課長・監査指導課長通知 社保第123号「生活保護の適正実施の推進について」、いわゆる「123号通知」の存在が指摘されている。「123号通知」自体は、暴力団関係者が絡んだ不正受給を契機として、申請書に添付する関係書類などを定めたものである。生活保護扶助費用の1⁄4および現業員の給与は自治体予算から支出されるため、生活保護受給者の増加が財政の大きな負担となっている。東京都中野区では平成30年度には175億円が生活保護に関する予算になっている。 日本弁護士連合会は、「現業員ですら生活保護法を正しく理解しておらず、生活保護に対する誤解と偏見を持っており、保護利用者に対し強い蔑みと不正利用に対する警戒心がある」「そうした現業員には生活保護申請が権利であるとの認識はなく、哀れみや施しの意識が存在している」 と述べる。 他にも、最後の頼みとして相談に来た相談者に、以下のような理由で、窓口をたらい回しにしたり、窓口で生活保護申請自体を断念させているという事例が多い。 自家用車を保有している(生活保護受給者は車の自己所有・リースではなく、タクシーや路線バスなど公共交通機関の利用が定められている。レンタカーなど他人名義の自動車を利用し、運転することは可能である。) 病気や障がいなどで就労が困難な人に対して、医師の診断書を持って来てくださいと言う 来所者がDVの被害者であれば、警察署や地方裁判所が発行したDV証明書を持って来てくださいと言う 来所者が離婚をした妊娠中の女性であれば、前夫の住所と連絡先が必要ですと言う 財布の中に入っている、現在の所持金を見せてください言ったり、銀行の預金残高を教えてくださいと言う。 クレジットカードを保有している 消費者金融のキャッシングカードまたは、銀行のカードローンを保有している 持ち家を保有している 所持金や預貯金が数万円になったら、再度来てくださいと言う 地方自治体が定める最低生活費以上の預貯金や所持金を保有している 借金がある 離婚などでひとり親家庭になった方は、養育費を受けられるように努力してもらうと言う 別居中または別れた配偶者に対して、仕送りを受けられるように努力してもらうと言ったり、扶養照会と資産調査を行うと言う 稼働能力がある(年齢が若い) 扶養義務者がいる ホームレスである 現住居の家賃が高いので、家賃の安いところに転居して下さいと言う 来所者が若い女性ならば「水商売や風俗嬢に身を投じても働くべし」と言う 暴力団員(反社会的勢力)である(後述のとおり、現在は暴力団員の受給は禁じられている)
※この「生活保護費抑制と水際作戦」の解説は、「生活保護問題」の解説の一部です。
「生活保護費抑制と水際作戦」を含む「生活保護問題」の記事については、「生活保護問題」の概要を参照ください。
- 生活保護費抑制と水際作戦のページへのリンク