狭義のペッパーボックス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/11 09:05 UTC 版)
「ペッパーボックスピストル」の記事における「狭義のペッパーボックス」の解説
19世紀に普及したペッパーボックスピストルは、複数の銃身を結束するのではなく、レンコンのような穴を銃身とする一つの塊として鋳造する製法が採られていた。この製法のおかげで、頑丈な上に安価な発射システムが大量生産でき、コストダウンに大いに貢献したといわれている。通常のリボルバー拳銃のように銃身と薬室を回転毎に精密に結合させる技術も必要ないため、内部機構の大幅な簡素化も価格低下に繋がった。 更に、当時のリボルバー式拳銃は発砲のたびに撃鉄を引きこす必要があるシングルアクションが主流だったのに対し、ペッパーボックスは引き金を連続して引くだけのダブルアクションで、矢継ぎ早に連射することが可能な唯一の銃種だったことも、ヒットの要因となった。 しかし、一体鋳造の銃身兼薬室で口径を大型化すると重心が前方に寄ってしまうため、弾薬の強化発展は望めず、回転するシリンダー銃身から発射される弾は固定銃身に比較すると命中精度も劣る。更に、南北戦争の影響もあってコルトやレミントンの高性能なパーカッション回転式拳銃が安価で大量に流通するようになると、ペッパーボックスは急速に衰退し、1850年代後半にはそのほとんどがその姿を消すことになる。銃器の発展史で言えば、ペッパーボックスピストルは、単発式拳銃から近代的な商用リボルバー拳銃に移行するまでの黎明期を埋めた銃種となっていた。 作家のマーク・トウェインは、ペッパーボックス拳銃について「銃身が回転するので、的に当てにくい。一発撃つと暴発して装填された弾が全部発射されてしまうことがあり危険である」という評価を残し、こういった弾が何処に暴発するか判らない同銃の安全性の低さ、命中精度の悪さを指して「アレン・ペッパーボックスを撃つときには、そばに居ないほうが良い。ただし背後に居る分には危険がない」とも皮肉っている。 「一発撃つと暴発して弾が全部発射されてしまう」現象は「チェーンファイア」と呼ばれ、ペッパーボックスピストルに限らず、当時のパーカッション式回転銃器全般が抱えていた暴発の不具合でもあった。これは前装式の回転式銃器を発射した際、その発射炎がシリンダーギャップと呼ばれる銃身とシリンダーの隙間から、別の薬室内の発射薬に引火する事によって起きる事故である。これを防止するために、予め薬室に蓋を被せるようにシリンダー孔をグリスでシールするが、急ぎの再装填の際ではこの手間を省くことも多く、また前装式ゆえに再装填する際にこぼれた発射薬がシリンダー周りに残っている場合もあり、チェーンファイアの原因となった。 鋳造が未熟で薬室の密閉性に問題のある粗悪なペッパーボックスピストルでは、この伝火現象が良く起こったと言われているが、構造的にはシリンダーギャップその物が存在せず、延長されたシリンダーによって発射薬は通常のリボルバーより更に奥に位置しているので、チェーンファイアは比較的起こりにくく、万が一起こってしまっても弾が全弾飛び出すだけで、前方に銃身他の付属構造物のないペッパーボックスは、銃本体の構造破壊に繋がる深刻なダメージを引き起こさない利点もあった。これらの特徴と価格の安さ、また当時の基準から見て再装填の容易さから、「それなりの性能があれば良い」購買層には、中古リボルバー市場が形成される前までは愛用されていた。
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