水産資源の保護
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紀の川大堰の補償交渉において最も困難だったのは、漁業協同組合との漁業権補償交渉であった。利根川河口堰(利根川)や長良川河口堰(長良川)、筑後大堰(筑後川)などにおける河川生態系への影響が論じられ、長良川では長きに亘る反対運動が展開されていた。紀の川においても河口部は豊富な水産資源を有し、アユを始めとする回遊魚が遡上する河川であったことから漁業資源減少を憂う漁業関係者は1978年の計画発表以降、猛然と反対運動を繰り広げた。建設省(現・国土交通省)との補償交渉は14年の間続けられ、1992年(平成4年)3月に妥結を見た。 建設省は1976年(昭和51年)より実施計画調査の一環として自然環境調査を実施し、エコネットワークの確保・生物多様性の確保・環境改変を最小限に留める事を柱とした自然環境保全計画として1991年(平成3年)に『紀の川リバーグリーンベルト構想』を発表。干潟・浅瀬・中州の保全、ヨシ・ヤナギ群落の保全・植生・復元、ワンド作成と水際線を自然に近い形での曲線的整備を行い、自然に近い形での周辺整備を進めることとした。この構想は1996年(平成8年)に正式な基本計画として発表され、以後作業が進められている。 同時に堰に付設する魚道の整備も検討された。従来の単一な魚道ではなく複数種類の魚道を建設し、多種多様な水棲生物が遡上できるような環境を整えようとした。既設されている新六ヶ井頭首工は固定堰であり、渇水時にはコンクリートがむき出しとなって魚の遡上が全く不可能となる。逆に出水時には水勢が強すぎて遡上がこれまた出来ない弊害を持っていた。漁協ではアユの遡上期に堰に入り、遡上するアユを網で捕獲し堰上流に放流する「すくいごし」が毎年行われていたが、全て人力であり限界があった。 紀の川大堰では3種類の魚道を建設した。1つ目は「階段式魚道」であり流量制御が容易で幅広い水位にも対応が可能で、かつアユ遡上実績も多いことからアユを対象に全国的に採用されている。2つ目は「デニール式バーチカルスロット式魚道」と呼ばれるもので、底生魚や比較的急流の水流を好む魚類に対応が可能でサツキマスやヨシノボリなどが対象となっている。そして3つ目は様態を自然の河川に限りなく近づけた「人工河川型魚道」である。これは既に九頭竜川鳴鹿大堰(九頭竜川)で採用されているもので、全ての魚類に対応できる。またアユの産卵床としても使用が期待されており、ウナギやモクズガニなどが対象となる。この他魚道に魚が遡上できるように誘導する「呼び水水路」も設置、遡上促進と流量調整を図っている。 現在堰付近には資料館も設置されており、魚道を遡上する魚をガラス越しに観察できるコーナーも設けられている。なお、資料館は2011年3月まで開館されていたが、2011年4月より見学希望者のみへの対応となってしまっている。既にアユの遡上が確認されているが、長期的な影響については未確認である。淀川大堰(淀川)ではワンドを整備したにも関わらず湛水域の拡大でヨシ群落が水没、イタセンパラなどの絶滅危惧種が減少したという報告もあり、長期的スパンで今後の厳重なモニタリングが重要との指摘も多い。
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