歩兵の未来
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/02 03:24 UTC 版)
アメリカなどの先進国では、歩兵の人的被害が国内世論にとって致命的な反戦ムードを与える事が、ベトナム戦争以降の教訓として残っているため、歩兵の生存帰還率を引き上げる機械化に極めて熱心である。戦争以外の任務など任務の多様性は増す一方であり、歩兵の教育・訓練コストの上昇もこの歩兵の人的損害を軽減させる研究の推進を後押ししている。 2010年現在、欧米の軍隊を中心とした歩兵装備の見直しの研究や装備の改良などが進められており、特に歩兵個人単位でのネットワーク化が試験されている。1990年代より携帯情報端末などを装備した先進歩兵システムの開発が行われてきており、ウェアラブルコンピュータの導入などにより、歩兵一人辺りへの個別指示の密度も高くなることも予測されている。これらの状況から、軽量なHMDを内蔵する動力付きの甲冑を装備した歩兵や、NBC兵器によって汚染された地域でも行動できる防護性の高いスーツを着込んだ歩兵などの将来像が考えられている。パワードスーツ(外骨格スーツ)の導入や、通信や情報伝達・相互連携にコンピュータとのインターフェースの改良による総合的な情報処理技術の導入なども長期的な視点で検討している。 しかし銃器の威力向上や電子戦技術の発展、また現在のバッテリーの技術力などから考えて、歩兵の将来は安全で快適なものになることは非常に難しいと現時点では考えられている。火器の攻撃力は高まり、センサの精度が上がったことで夜間や悪天候における殺傷力は大きく飛躍している。また生物兵器や化学兵器などが世界的に拡散しており、歩兵を取り巻く武器や兵器はより強力になる一方、歩兵はより強力な防御力が要求され、本質的には「矛と盾」の延々と続く競争の延長に過ぎない。また、歩兵が取り扱わなければならない通信装備などが高度化し、市街戦などの増加もあって戦闘の中身も複雑化しているので、教育水準の高い人材がますます歩兵として求められている。 戦場の機械化・無人化の行き着く果てには、究極的には完全無人、自律制御のロボット兵士があるという考えもあるが、近年増加傾向にある市街戦のような敵味方以外に民間人などが混在する複雑な戦場における自律制御型ロボットの敵味方識別能力や交戦規定を考慮した行動能力にはまだまだ問題があり、将来の歩兵が自律ロボット化することの現実性はロボット技術やAIの技術的な面から難しいのが現状である。ただ攻撃など最終的な判断は操作する兵士に委ねられるような自律制御でないリモートコントロール式のロボットの実戦配備は進められており、これらは従来歩兵が携帯している武器の延長的な運用をされるほか、歩兵に先行して周囲を偵察するために利用されている。このほか、輸送や負傷者の後方への搬送など非戦闘任務においての活躍が期待される自動走行するロボット自動車も研究中である(→ロボット#兵器としてのロボット)。
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