朝鮮労働党対外連絡部
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朝鮮労働党対外連絡部(ちょうせんろうどうとうたいがいれんらくぶ)は、かつて存在した朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の情報機関。2009年の情報機関改革で、内閣附属の内閣第225部(室)(対外交流局(대외교류국))に縮小改編されて金英哲(キム・ヨンチョル)の指揮下に入った後[1][2]、再び党所属に復帰し、現在では第225部(室)は朝鮮労働党統一戦線部の傘下機関となっている[3]。
概要
朝鮮労働党対外連絡部は、韓国内に浸透して秘密地下組織(地下党)を構築し、スパイや地下組織を管理する機関であった。かつては連絡部、社会文化部とも呼ばれていた。また、他の党諜報機関とともに「三号庁舎」を構成しているとされていた。
主に韓国内の反韓国勢力(親北朝鮮勢力)を糾合し、反北朝鮮勢力に対するテロと拉致を行った。数百名の工作員を擁していた。
烽火政治大学
烽火政治大学(110連絡所)は、1989年に新設された。烽火政治大学は、金正日政治軍事大学の工作員分校が発展したもので、対外連絡部の対南工作員養成機関である。
活動内容
- 要人暗殺
- 日本人拉致
- 政治・経済・社会・軍事情報収集
- 流言飛語の流布
- 工作員の獲得
- 韓国、日本の政治団体、社会団体、キリスト教など宗教団体への浸透工作
- 工作員の密封教育、韓国への侵入、地下組織構築
- 工作員による貿易会社の運営
- 麻薬密売等の非合法活動
- 日本から核開発やミサイル開発に必要な部品の密輸
主導ないし関与したとされる作戦・事件
- 文世光事件
- 高沢皓司の1998年の著作『宿命-「よど号」亡命者たちの秘密工作』(文庫版は2000年発行)によれば日本の反核運動に関与し、北朝鮮のプロパガンダ誌『おーJAPAN』の発行を行った[4][注釈 1]。
- 李韓永暗殺事件
- 申相玉・崔銀姫拉致事件[注釈 2]
- よど号関係の日本人拉致事件[6]
日本人拉致
日本政府認定拉致被害者のうち、石岡亨(1980年失踪)、松木薫(1980年失踪)、有本恵子(1983年失踪)の拉致は対外連絡部指揮下の「よど号グループ」によるものである[6][7]。また、田中実(1978年失踪)の拉致については、断定は難しいが対外連絡部による作戦であろうと考えられる[7][注釈 3]。
組織
傘下の組織
- 烽火政治大学校
- 日本革命村[12]
- 洛東江 (秘密工作機関)[13]
- 在日本朝鮮人科学技術協会(科協)[14]
- 大聖総局(大成総局とも、貿易会社)
- 20余隻の貿易船を所有する。
部長
- 姜柱日
歴代部長
- 林東玉
- 鄭慶姫
- 李昌善
- 李完基
- 姜周一[15]
有名な工作員
脚注
注釈
- ^ 『おーJAPAN』には、岩井章、土井たか子、宇井純、宇都宮徳馬、野間宏、久野収、丸木位里などがメッセージを寄せている[4]。
- ^ 崔銀姫の拉致を指揮したのは朝鮮労働党対外情報調査部副部長の任浩君と労働党対外連絡部の李完基部長であった[5]。実行犯はその意を受けた北朝鮮工作員3名であった[5]。
- ^ 神戸市内のラーメン店の店員だった田中実は、店主で対外連絡部指揮下の秘密組織「洛東江」の工作員だった在日朝鮮人韓龍大らに言葉巧みにだまされてオーストリアのウィーンに連れ出され、そこで行方不明となった[8][9]。田中については、ストックホルム合意後の2014年から2015年にかけて「平壌で妻とともに生活している」という生存情報が北朝鮮側から寄せられていた[10][11]。
出典
- ^ 北軍部「対韓国通」キム・ヨンチョル氏、工作総責に 中央日報 2010年2月18日
- ^ 北대남해외공작기구 '정찰총국'으로 통합(2009年5月10日付連合ニュース)
- ^ 総連、北朝鮮での発言力低下? 指導機関が別組織傘下に 朝日新聞 2013年10月17日
- ^ a b 高沢(2000)p.414
- ^ a b 『横田めぐみは生きている』(2003)pp.174-176
- ^ a b 高沢(2000)p.252
- ^ a b 蓮池(2025)pp.30-32
- ^ 張龍雲(1999)pp.117-118
- ^ “田中実さんについて 1.田中実さんに関する基礎資料”. 救う会全国協議会 レポート. 北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会. 2025年9月7日閲覧。
- ^ 鈴木(2025)pp.211-213
- ^ 共同通信 (2019年2月15日). “拉致被害者の田中実さんに妻子 北朝鮮、日本に14年伝達”. 共同通信. 2025年9月7日閲覧。
- ^ 高沢(2000)p.223
- ^ 張龍雲(1999)p.100
- ^ “【やばいぞ日本】第1部 見えない敵(6)科協(カーギー)がさらう頭脳と技術”. 産経新聞. (2007年7月21日)
- ^ 全富億(2002)p.215
- ^ a b 全富億(2002)p.121
- ^ 『決定版! 北朝鮮ワールド』(2003)p.76
参考文献
- 鈴木拓也『当事者たちの証言で追う 北朝鮮・拉致問題の深層』朝日新聞出版、2024年2月。ISBN 978-4-02-251966-5。
- 高沢皓司『宿命-「よど号」亡命者たちの秘密工作』新潮社〈新潮文庫〉、2000年8月。 ISBN 978-4101355313。
- 張龍雲『朝鮮総連工作員 「黒い蛇」の遺言状』小学館〈小学館文庫〉、1999年11月。 ISBN 4-09-403711-X。
- 全富億『北朝鮮のスパイ戦略』講談社〈講談社+α文庫〉、2002年10月。 ISBN 4-06-256679-6。
- 蓮池薫『日本人拉致』岩波書店〈岩波新書〉、2025年5月。 ISBN 978-4-00-432064-7。
- 別冊宝島編集部 編『決定版! 北朝鮮ワールド』宝島社〈宝島社文庫〉、2003年12月。 ISBN 978-4796638166。}
- 『横田めぐみは生きている 安明進が暴いた日本人拉致の陰謀』講談社〈講談社MOOK〉、2003年4月。 ISBN 4-06-179395-0。
関連資料
- 安明進『北朝鮮拉致工作員』徳間書店〈徳間文庫〉、2000年3月。 ISBN 978-4198912857。
- 康明道『北朝鮮の最高機密』文藝春秋〈文春文庫〉、1998年11月。 ISBN 978-4167550165。
- 金賢姫 著、池田菊敏 訳『金賢姫全告白 いま、女として(上)』文藝春秋、1991年10月。 ISBN 4-16-345640-6。
- 金賢姫 著、池田菊敏 訳『金賢姫全告白 いま、女として(下)』文藝春秋、1991年9月。 ISBN 4-16-345650-3。
- 李友情(作・漫画)・李英和(監修)『マンガ金正日入門 北朝鮮将軍様の真実』飛鳥新社、2003年7月。 ISBN 978-4870315754。
関連項目
- 朝鮮労働党対外連絡部のページへのリンク