昼間波の発見と平面型ビームアンテナ
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「グリエルモ・マルコーニ」の記事における「昼間波の発見と平面型ビームアンテナ」の解説
1924年7月28日、マルコーニ無線電信会社は英国郵政庁GPOより4つの官営公衆回線の建設を受注することに成功した。 当時、夜間にのみ電波がケネリー=ヘビサイド層(電離層)に反射され遠距離にまで届くことは、中波ラジオ放送の普及により一般人さえもが経験している「常識」であり、これを疑うものは誰ひとりいなかった。しかしマルコーニは無線による遠距離通信が夜間に限られることを強く憂えていたのである。一般電報を取り扱う「公衆通信サービス」において、24時間通信が可能な海底ケーブルに対して、無線は夜になるまで遠距離電報の送受ができないからだ。 そこで1924年8月、マルコーニは昼間も遠距離通信が可能な「昼間波」を探すためにエレットラ号で航海に出た。母国イタリアのナポリを拠点とし、シチリア島のメッシーナ、ギリシャのクレタ島を経由して地中海の東端であるベイルートへ向かった。マルコーニはポルドゥー2YTの送信波長を92m(周波数3.26MHz)、60m(周波数5MHz)、47m(周波数6.4MHz)、32m(周波数9.4MHz)へと切り替えさせながら観測を繰り返していたが、ついに3,800km離れたベイルートにおいて波長32m(周波数9.4MHz)が24時間受信できた。「昼間波」を発見したかもしれない。マルコーニは英国に急いで戻り「昼間波」の存在を実証する大規模テストの準備をはじめた。 1924年10月、2YTから発射された波長32mの信号は北米のモントリオールとニューヨーク、南米のリオデジャネイロとブエノスアイレス、南アフリカのケープタウン、インドのボンベイとカラチ、オーストラリアのシドニーで昼間に受信された。1924年12月11日、マルコーニはロンドンの王立技芸協会(Royal Society of Arts)で、「昼間波」を求めてエレットラ号でベイルートまで航海し、それを発見したことや、10月に実施した世界的規模の検証実験の成果を発表した。特に地球の裏側のシドニーにて23.5時間/日も受信できたことは、全世界の公衆通信関係者に大きな衝撃を与えた。マルコーニは電波界の常識を覆し、日中でも遠距離通信が可能な「昼間波」を発見したのである。 マルコーニにはもう一つの課題があった。立体的な構造の巨大パラボラビームアンテナを簡素化したいと考えていた。そしてこれに応えたのがフランクリン技師だった。フランクリン技師は手はじめに多段コーリニアアレイアンテナに反射エレメントを追加してみたが、思うほどの鋭い指向性は得られなかった。そこでコーリニアアレイと反射エレメントの対をカーテン状に複数並べた平面型ビームアンテナの開発に成功した。そして1923年頃よりサウス・フォアランドに平面型ビームによる波長6.09m(49.3MHz)の電波灯台を建設し、ビームテストを重ねてきたのである。 マルコーニは自分が発見した「昼間波」と、フランクリン技師が開発した平面型ビームアンテナを、受注した官営無線局に採用することを決めた。難工事の末、まず1926年10月25日にカナダビームを開通させて郵政庁GPOへ引き渡し、1927年にオーストラリア回線、南アフリカ回線、インド回線を完成させた。英国側のビーム局は郵政庁直営だが、対手局側のビーム局は傘下企業に任された。周波数的にはカナダ回線とオーストラリア回線では昼間11MHzを、南アフリカ回線とインド回線では昼間18MHzとの夜間8MHzを併用した。 回線名開業日英国送信局(呼出符号,周波数)対手送信局(呼出符号,周波数,国名)カナダ 1926年10月25日 ボトミン(GBK, 11.500MHz) ドラモンドビル(CG, 11.420MHz, カナダ) オーストラリア 1927年4月8日 グリムズビー(GBH, 11.580MHz) バラン(VIZ, 11.660MHz, オーストラリア) 南アフリカ 1927年7月5日 ボトミン(GBJ, 昼18.580/夜8.820MHz) クリフューヴァル(VNB, 昼18.660/夜8.900MHz, 南アフリカ) インド 1927年9月6日 グリムズビー(GBI, 昼18.500/夜8.780MHz) カーキ(VNW, 昼18.420/夜8.700MHz, インド) こうして短波を用いた公衆通信に先鞭を付けるという偉業をマルコーニが成し遂げた。世界各国はマルコーニ社の特許に抵触しない独自方式の平面型ビームアンテナを開発し、「昼間波」と「夜間波」を併用する遠距離短波通信の時代が地球規模で幕開けたのである。
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