捕獲後の処理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/27 08:54 UTC 版)
「虫を殺すもの」は虫の種類によって有効なものが異なるが、基本は殺虫管か毒瓶を使用する。例外的なものはチョウ・ガ・トンボなどで、チョウやガは捕まえた後網の上から胸部を強く抑えて殺した後掌で受けて(手でつまみ出すと鱗粉がはげるのでやってはいけない)後述の三角紙(さんかくし)で包むので殺す道具はいらない。トンボも三角紙で包んだあと餓死するまで放置させるのでこれも道具は使用しない、他の大半の昆虫は殺虫管で殺し、収容しきれないサイズの物は毒びんを使用する。殺虫管は昆虫採集専用につくられたものはガラス製で底にくびれた部屋がある。そこに脱脂綿などを押し込んで薬品を吸わせておくことができるようになっており、薬品を仕込んでから口をコルク栓で密封する。大型の昆虫用にはより大きなガラス容器である毒壺(毒びん)がある。 昔の標本制作キットには注射器が付いているものがあったが、注射器はごく特殊の物以外には不要というより、使うとかえって標本を汚してしまうことが多い。 この殺虫に使う薬品は即効性があるものがよく、かつては青酸カリがよく使用されていたが、人間への危険性以外に虫が死後硬直を起こして標本が作りにくいという欠点があるので、時代と共に変化していき、1967年刊行の事典『原色現代科学大事典4』では以下のような薬品も候補にあげられている。 いろいろな殺虫剤の性質殺虫剤特徴青酸カリ 即効性で効力は大きい きわめて有毒であり 虫が死後硬くなる欠点がある 酢酸エチル 効力は大きく 無害で入手しやすい 虫は固くならないが 緑色が変色する 四塩化炭素 効力は大きく変色もしないが長く入れたままにすると虫がぼろぼろになる 石油ベンジン 効力は弱く変色したり虫が固くなるが無害で入手簡単である 初心者向き パラ-DCB系 固体のままでは役には立たないがベンジンを注いで溶かしたものは人体に害も少なく、子供の取り扱いにも適している。 不適当な薬品エーテル・アルコール・ホルマリン・ホドジン・DDT・BHC ホルマリンは殺した昆虫が硬化し、軟化不能になるため下記のような展足ができなくなるから原則用いない方がよいが、例外的にトンボやキリギリス類の色止めに用いられることもある。 今日では酢酸エチルを用いることが多い。酢酸エチルの入手は成年で、身分証明や印鑑などが必要である為に未成年や出来るだけ昆虫採集に費用をかけたくない者は100円均一ショップなどで販売されている酢酸エチルを含むマニキュア除光液を使用している。必要微小な小蛾類にはアンモニアも用いられる。酢酸エチルは毒瓶の壁に結露しやすいため、微毛や剛毛が同定形質として重要なハチやハエに用いる場合には体表が濡れて毛が損傷しやすいので不適切な側面がある。先述のシアン化カリウムを用いる方法はこの手の昆虫に最適であったのであるが、今日では一般の入手が困難になったため、大学などの公的研究機関以外では稀にしか用いられていない。これらに酢酸エチルを使う場合には、死んだらすぐに瓶から取り出す、結露した酢酸エチルをこまめに拭うなどの工夫を要する。また、1990年代以降、二亜硫酸ナトリウムとクエン酸を混合して亜硫酸ガスを生じさせる方法が使われるようになってきており、ハチやハエの採集に有効である他、体脂肪の多いオサムシやゲンゴロウに用いたときに油の滲み出しを防止する効果があるため、次第に普及してきている。また酢酸エチルなどの薬品が入手できない場合や使用すると変色してしまう場合は冷凍庫にいれるという方法もある。通常の昆虫の場合は十分処理が可能でありしかも変色なども少ないという利点がある。 「殺した虫を収めて持ち帰る容器」は大半の虫は殺虫管に入れたままでよいが、チョウやガ、トンボなどは放置すると汚れてしまうので、前述のように三角紙に入れてバンドに取り付けた専用の三角ケースに収容して持って帰る。三角紙はパラフィン紙を三角形に折りたたんだもので、1枚のパラフィン紙の1/32・1/64・1/128ぐらいの大・中・小として使用するが、採集では全部大サイズ(1/32)を持って行ってとりあえずこれに入れ、帰って来てからすぐに小さいものを中・小の三角紙に移した方が良い。 上記の3種類のうち、特にトンボの場合は生きたまま三角紙に包み、餓死させるようにしないと、内臓が腐敗して著しく変色してしまう。チョウとガ以外の昆虫に関しては、トンボに限らず、必ずしも殺さなくても良い。採集品がそれほど多くなく、かつ時間がある場合、餓死させてから処理しても十分間に合う。むしろ上記のような薬品を使うことによる変色や破損も避けられる。ただし、捕らえた昆虫が生存中に、苦し紛れに自らの歩脚を咬んで破損させたり、暴れて翅を傷めたりする恐れもあるので注意が必要である。
※この「捕獲後の処理」の解説は、「昆虫採集」の解説の一部です。
「捕獲後の処理」を含む「昆虫採集」の記事については、「昆虫採集」の概要を参照ください。
- 捕獲後の処理のページへのリンク